ふたり回し

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……ウチが今から、それを教えたる! その11

 

「2ターン目だと? お前何を言ってるんだ? 訳が分からないぞ」

 不意打ちで攻撃に使えるジャックなど、ほぼ『金のリンゴ』のみ。
 2ターン目の頭に狙おうと思ったら、あらかじめイコンを2体出した上で手札に『金のリンゴ』を確保する必要がある。
 高速展開や踏み倒しなどというレベルではなく、1ターンキルに片足を突っ込むようなコンボを使ったとしか考えられない。

「俺だって分かんねーよ、何のカードかまでは見えなかったんだし」

 だが今のcarnaに、それも高確率で決められるような1ターンキルは存在しない。
 組めたとしても、まともに動かせるのは10回に1度くらいのものだろう。

「見えなかった? ユキトにも?」

 俺が訊ねると、アキノリは肩をすくめた。

「トイレから中々帰って来なかったんだ。ボイジャーさんも八汐さんの写真撮ってたし」

 肝心な時に限って、二人とも何をしているのだ。
 これでは態々移動した意味がないではないか。

「奇術(トリック)だ、奇術(トリック)に決まっている! それともお前……奴が本物の魔術(マジック)を使ったとでも?」

 魔術(マジック)と魔術師(ウィザード)は、DWDに於ける最大級の称賛である。
 たとえどれだけ上手かろうとも、可哀相女がその言葉に相応しいなどということがあってよい筈がない。
 俺はアキノリを帰し、可哀相女の使ったコンボを推測した。
 使えるフェイズは僅か3つ、自分の1ターン目と、次のキャストフェイズ、そして2ターン目。
 イコンをカーナした後では『金のリンゴ』をスタンバイ出来ないので、実質2ターンのコンボとなる。
 無論ジェリーを2体並べてリンゴという手も原理的には可能だが、これは完全なポーカーだ。
 間にサプリかサーチを挟むことを考えると、何かしらのスペルは挟まるだろう。
 となると金イコンを2体出してスペルを1枚スタンバイ、これもポーカーではないか。
 アイデアが浮かぶ前に、3戦目終了のアナウンスが流れた。

「しまった!」

 はっとしてディスプレイを見やると、幸いKは全勝を守り、二位のプレイヤーとの点差を5に広げている。
 続く4試合目も極端な事故などはないようで、順調にフォロアを決めた。
 アタックを受けるわけでもなくイコンを出すだけ、ということは、相手は除去コンか。
 カウンターを握っていれば発動するのだから、こちらとしては若干やりづらい。
 耐久力のあるクローナで、堅実に攻めていきたいところだ。
 Kは一度カウンターを踏むも相手をジリ貧に追い込み、1ゲーム目を着実に勝ち取った。

 後2ゲーム凌げば、予選突破は目前。
 勝ちが見えた場面で、事態は急転した。
 相手がイコンを出すと同時に、Kのイコンが消えてしまったのだ。

「Kめ、アニスを使ったな」

 carnaと同時ということは、十中八九相手のカードはタバサ。
 パワー3以下は危険だと、口を酸っぱくして教えたというのに。
 欲をかいて高コストに手を伸ばそうとしたのか、他に選択肢がなかったのか。
 いずれにせよ、嫌なタイミングでの失点だ。
 アヤが付いたせいか攻め手が途切れてしまい、3ゲーム目も落としてしまった。
 二位との点差は僅か1点。
 トリシャさんに続き、Kにも予選敗退の恐れが出てきた。

「K! 踏ん張れー! 何としてでも可哀相女に辿り着くんだ!」

 Kが立ち止まり、硬い表情で観客席を見上げた。
 他にも言いたいことは山ほどあるが、試合中の具体的なアドバイスは御法度だ。
 ここで出来るのは、悔しいが蒙昧な精神論を叫ぶことくらいである。

「言われんでも分かっとるわい!」

 頬を叩き、気合を入れ直して席に付くK。
 対戦相手がびくついているのは、予期せぬ副次効果ということにしておくか。
 予選落ちが確定しているせいか相手のプレイに覇気はなく、天秤を食らうと立て直すことも出来ずゲームセット。
 Kは相手のイコンを減らすことを心がけ、危なげなく6点を勝ち取った。

「本選に進むコンテスタントが、今、全員確定した」

 各ブロックの予選突破者が画面に表示された。
 八汐さんは30P、Kは26P、可哀相女は28Pか。
 ギリギリの22Pだが、京子ちゃんもちゃっかり勝ち進んでいる。
 30分のインターバルが言い渡され、俺はアキノリ達と合流した。

「全員突破と行きたかったが、やはり現実は厳しいな」

 トリシャさんの様子は? 
 俺が尋ねると、アキノリは小さく頷いた。

「多少持ち直して、10点は取ったんだけどな……あれはショックでかいぜ」

 それよりも気がかりなのは、可哀相女のえげつない嘲弄である。
 図太いKと違って、トリシャさんは純粋で繊細な精神の持ち主。
 再起不能を避けるためにも、俺達が総力を挙げて励まさなければならない。

「おのれ可哀相女……この借りは必ず返す」

 ステージを睨み付け、俺は拳を握った。
 
「っても、俺達は外野だけどな」

 エントリーも出来ないのでは、トリシャさんの敵討ちも残った二人に託すほかない。
 控室から引き上げて来る4人を迎えに、俺達は観客席を後にした。