ふたり回し

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A-19 Hook Bill

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国防総省は長年制空戦闘機と対地攻撃機の一本化を図ってきたものの、90年代以降実戦で制空戦闘が発生する機会は少なく、空戦能力に欠けるA-10が戦果を積み重ねるという皮肉な状況が続いていた。

F-15EやF-16などのマルチロール機は十二分な兵器搭載重量や火器管制能力を持っていたが、近接航空支援に要求される低速での運動性や燃費、対空砲火に対する耐性など一部の能力は速度性能との両立に限界がある。

そしてそれ以上に、損耗時の経済的リスクから戦闘機を対地攻撃に従事させることが問題視され、代わりに立ち上がったのが「次世代低速多用途機開発計画」であった。

従来、近接航空支援機、早期警戒機、対潜哨戒機は別個に開発、運用されていたが、速度性能より空中待機能力や離着陸能力が求められる点は共通している。

またA-1が警戒機に、S-3が攻撃機に転用された事例が存在し、電子機器の小型化、自動化が進んだことから、早期警戒、対潜哨戒任務共に複座の小型機で遂行可能であるとの見方が強まった。

当初計画には一部攻撃、艦載ヘリの代替さえ盛り込まれていたが、製造コストと機体重量、燃料消費の増加、整備性と機体強度の低下は低コストの近接航空支援機というコンセプトと相いれず、推力偏向による垂直離着陸能力の獲得は早々に棄却されている。

短距離離着陸能力の追及は最小限の可動部により実現するものとされ、短距離離着陸に優れるOV-10がA-10と並んで機体設計の参考にされた。

艦上で運用する上でも小型化が強く要求され、最終的な全体像はCOIN機と同様の規模で折り畳みが可能な直線翼、牽引式の大径ターボプロップとパワード・リフトのための高揚力装置と寧ろOV-10に近い。

無論A-10から重装甲と大口径機関砲が引き継がれ、潮風や砂塵にも対策が取られるものとされた。

対地攻撃型のA-19とそれ以外のS/E/U-19は胴体上部以外のパーツは共通であり、コストの低減にも留意されている。

ノースロップ・グラマン社のYA-21との比較試験の結果、ボーイング社のYA-19が次世代機に決定。

装甲車両を攻撃目標とすること、派生型が多数計画されたことから公称はフックビル(オウム)とされた。

 

A-19最大の特徴は、卓越した短距離離着陸能力である。

後退角が付けられた大径の同軸反転プロペラは低速時に大きな加速力を発揮、副次的に航続距離も増槽なしで3000kmを実現した。

エンジンも大出力を確保しつつ前後幅を短縮するため左右に二基ずつT800が搭載され、それぞれが独立して前後のプロペラに機械接続されている。

空中待機中は左側のエンジンを停止させ、一段目のプロペラをリバースピッチに固定することで燃費を抑えることが可能。

主翼の三重間隙フラップにプロペラの後流を直接当てエンジンの排気をスリットから主翼上面に流すことで迎え角をとってのホバリングを実現、強襲揚陸艦は勿論のこと、ワトソン級の甲板で離着陸を成功させた。

この結果を受け、陸軍でも部分的にAH-64Dからの置き換えが進んでいる。

 

牽引式のためハードポイントは胴体下五か所、外翼各一か所の計七か所のみ。

内翼下面は長い主脚の収納スペースとして活用されており、油圧機構によって迎角を大きく変化させることができる。

機首によって前方の視界が遮られるため、IRSTと可視光カメラが主翼折り畳み部のポッドにそれぞれ内蔵された。

なお主脚のハッチはチタン製でそれ自体がフレームとしての機能を持ち、重量と部品点数の削減に貢献している。

また内翼の下面の内側にはセラミックプレートが貼り付けられ、主翼上に配置されたエンジンと送電・送油系を対空砲火から防護する働きがある。

胴体下面にも同様の装甲が施され、コクピット、燃料槽、弾薬をまとめて保護、主翼が機体底面と一体なため全体の剛性も高い。

主翼内に燃料タンクを持たず、胴体内にタンクが納められている構造もA-10から引き継がれた。

エンジンにも泡消火装置が装備され、また四発であることから故障・被弾時のリスクも低減されている。

加えて対空ミサイルの誘導を妨害するため、尾部には4基のAN/ALE-50が内蔵された。

 

機体が小型化し搭載兵器量が減少した一方、機関砲には高威力が求められた。

装弾筒を利用するとエンジンが排出された装弾筒を吸い込む恐れがあり、弾芯のみを高圧で発射する必要がある。

アライアント・テックシステムズは本機の開発にあたり、小口径で厚い砲身を持つ特殊な機関砲と、76mm砲と同等の装薬を施された専用のテレスコープ弾を並行して開発した。

完成したM330の反動と排熱はあまりにも激しく、当初「フックビルの嘴はパイロットのナットをクラックする」と揶揄された程である。

実際に機関砲の振動が原因で操縦系の故障が相次ぎ、集弾率の低さも問題となり初期生産型では機関砲の掃射が許可されていない。

一時生産を中断して急ピッチで改修が進められた結果、駐退機と水冷ジャケットの大型化により反動と排熱の問題が漸く解消された。

機関砲の重量は本体248kg、砲弾含み2,162kgに達したものの、非装備状態ならば100m以内の滑走で離陸できる。

左右のハードポイントにAIM-9を各一発、胴体下にはAGM-65ならば四発、AGM-84やGBU-28ならば中央に一発を搭載可能だが、重武装時にはフルサイズの滑走路なしで離陸することはできない。

戦術爆撃に際しては配備数の多さを活かし投入機数を増やす他、弾倉を燃料槽に交換することで対処している。

 

早期警戒仕様のE-19はA-19と胴体上面のモノコックが異なり、小ぶりなディスク型ロートドームを備えている。

機関砲の撤去に加えて燃料槽も胴体下面に外付けされ、胴体内の限られた空間はレーダー特技士官の座席と解析用の電子機器に利用される。

また早期警戒仕様と統一するため、A-19系列の尾翼にはコの字型の双垂直尾翼が選択された。

小型化の影響もありE-19の索敵範囲、標的追跡能力は前任のE-2Dと大差ないものの、機種統一の成果で単価はE-2Dの6割程度に引き下げられ、複数機を弾力的に運用することも容易。

途上国での導入も盛んにおこなわれ、世界で最もポピュラーな早期警戒機となった。

E-19からの派生で開発された対潜仕様のS-19は、燃料タンクとソノブイランチャーが内蔵されたコンフォーマルユニットを底面に、Mk.46対潜魚雷を外翼のハードポイントに搭載する。

ただS-19はヘリポートの小さな船舶では運用できないことが災いし、最小ロット分の調達が見込まれずに配備が中止された。

 

連絡型のU-19は5人分の座席を持ち、不整地に強行着陸可能なことから救援にも利用される。

過去の救援作戦失敗事例を受け、着陸前に安全を確保するためのガンシップ化キットが配備された。

キットは12.7mm機銃のターレットと赤外線妨害ポッドで構成され、乗員席のコンソールで操作する。

U-19にとってルックダウンカメラはシリーズ共通の固定装備であり、キットの装備により従来複数機で分担していた捜索、制圧、救援を単機で完結することが可能になった。

 

A-19以外の派生型ではコスト、重量軽減の観点から下面装甲の変更が検討されたこともあったが、優先攻撃目標に設定されやすいE-19や人員を輸送するU-19にとってもA-19譲りの装甲は大きな安心材料であり、根強い反対により撤回されている。