ふたり回し

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M-TuBE

近接支援の高精度化と携行火器の高火力化により主力戦車の生存さえ困難となり、地上部隊が前進に寄与する機会は急速に減少している。

上空からの索敵、対地攻撃を回避するには地下空間を攻撃的に活用する他なく、米国防省は坑道戦の近代化を図った。

坑道掘削は土木工事であり、その前進速度は車両と比較してもなきに等しい。

一方坑道戦が行われなくなった後にも民生用の坑道掘削装置は飛躍的な進歩を遂げており、軍用機相応の費用、技術を投入すれば掘削速度の向上は実現可能とされた。

陸軍の要請を受けて三菱重工とGEの合弁会社UWIが開始したのが、戦術坑道掘削装置(M-TuBE)開発計画である。

 

M-TuBEと泥土圧式のシールドマシンの間に、構造上の大きな差異はない。

ただ秘匿性の向上や燃費、コストの低減を目的に本体の直径が5m、トンネルの内径が4.2mに抑えられている。

GEは切削部、カッタービットの設計にあたり、切削速度の向上、同一装置での異なる地盤への適応を最重要課題とした。

カッタービットは回転によって地盤を削り取るため、中央部は周縁部に対して速度が低く掘削の際のボトルネックとなる。

開発チームはカッタービット中央に縦回転するグラインダーを配置することで、問題の解決を試みた。

試作一号ではカッタービット基部を貫通するシャフトで裏側の遊星歯車からグラインダーに動力を伝達する機構が内蔵されたものの、装置の複雑化とギヤボックスの温度上昇、砂泥の侵入による潤滑油の圧力低下やギアの損傷など様々な問題が発生。

機械接続は早々に断念され、自由回転するシャフトの両端に一対のグラインダーを配置、回転時の抵抗によって外周部のグラインダーが中央のグラインダーを駆動するという形式がとられた。

巨大なグラインダーには全周に渡って108枚のカッターが取り付けられ、個々のカッターへの負担が分散され破損時の影響も少ない。

加えてグラインダーの回転はチャンバー内に泥土を引きこみ、軟弱地盤に於ける掘削速度を向上させる。

もう一対のグラインダーが直角に装備されているが、こちらは自由回転するだけで互いに接続されているわけではない。

 

グラインダーが破砕した岩石をさらに細かく粉砕するため、本機はカッタービットの表面に無数の小さなカッターを装備する。

強度を底上げするためカッターは重ならない様に少しずつずらして配置され、カッター同士の間には泥土を取り込むためのホールが設けられている。

 

M-TuBEは1.16MWの外部電源により駆動され、インバーターを介して三菱電機製の6極二重アキシャルリラクタンスモーターに電力が供給される。

電動機は最大5,400shpを発揮し、推進用の油圧ジャッキが生みだす14.2MNの圧力と相まってシカゴ郊外で時速30mを記録した。

チャンバーと電動機の熱は交換器によって外殻に伝えられ、チャンバー内の泥土を通じてカッタービットも冷却される。

泥土の排出およびセグメントの組み立て装置には民生の下水用シールドマシンの部材が流用されたが、現時点で性能の不足などは指摘されていない。

 

当初は本体に武装を持たない代わり、本装備専用にオプション機器を内蔵したセグメントが開発される予定であった。

オプションの中には指向性爆弾に加えてケーブルカー、複合装甲まで含まれていたが、電動機の新規開発により本体価格が3000万ドルにまで高騰、特殊セグメントの開発が見送られる事態に陥ってしまう。

最終的にUSBポートとコンセントのみが内蔵され、換気装置を含め適宜必要な装備を取り付けて利用される。

 

触れ込みに反して本装備はなかなか坑道戦に利用されず、配備直後は日本や台湾で遅れていた防空壕の設置に重宝された。

平時にも利用できることが幸いし、本装備は辛うじて生産が継続され、電動機をダウングレードした廉価版に至っては量産効果を受けて通常のシールドマシンと価格が逆転。

国連軍の機体がニジェール川上流域の治水事業に投入され、全長200Kmに及ぶ地下水路は現在も耕作地域の拡大に寄与している。

記念すべき初の実戦はモサドによるハマス討伐で、複数のトンネルから同時に地下基地への突入が慣行された。

ただトンネルによる浸透は露見して制圧される事例も相次いでおり、現在は自陣の輸送網を構築するために利用している軍事組織が多数派を占める。

敵軍に察知されず部隊配置を変えられるメリットは大きく、UWIは機甲部隊を輸送可能なL-TuBEの開発計画を発表した。