難航中の第3話。
特別デリケートなシーンに突入した。
二人が通されたのは、バルコニーに面した、高い天井の部屋だった。
細工の施されたガラス窓はすっかり開け放たれ、
彫り込まれた水仙が、鋭い日差しにうっすらと浮かんでいた。
柔らかな青い寝椅子に、畏まって沈んだ風音は、それとなく部屋の中を見渡す。
瑠璃の桟と、大理石の壁を、金のエッジが上品に切り分け、
寝椅子と同じ青の絨毯は、整った毛並みを誇っていた。
潮の香りがしなければ、婆羅門の邸宅といわれても信じただろう。
「大したもんだなぁ」
隣で四肢を伸ばす宿合を、風音は横目で咎めたが、確かに豪奢な内装だった。
火の富良樹の実家より、金がかかっているかもしれない。
宿合の欠伸の向こう、壁際の白磁が目を引いた。
誰の作にせよ、不溜人にはもったいない品であることは間違いなかった。
「所詮は成金趣味です。驚くほどのものではありません」
金のノブがゆっくり動く重たい音が部屋に響いて、風音を飛びあがらせた。
二人に厳しい視線をよこす、組合の役員を片手で制したのは、
聞いたとおり風音と同じ、
いや、それよりすこし年下の、落ち着いた物腰の少女だった。
千波は、不溜人の豪商が婆羅門の娘との間に作った子供。
社会体制が変化する中での身分の在り方や、
風音個人のコンプレックスに触れていかなくてはならないので、
ここから先は難しいシーンになる。
しっかりと劣等感を描きつつ、不自然にならないように・・・