ふたり回し

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VOT-OD

東欧の安全保障環境が悪化の一途を辿る中、チェコ陸軍は輸送部隊の脆弱性に危機感を抱いていた。

後方輸送の主体は未だに非装甲のトラックであり、榴弾片で容易に破壊されてしまう。

一方MRAPの積載能力には限界があり、また小型ドローンの近接航空支援に耐える程の装甲は施されていない。

トラック輸送を代替可能な大容量、高馬力の装甲多用途輸送車には欧州全土で潜在的な需要が見込めるものとして、チェコ陸軍はポーランド陸軍に輸送車両の共同開発を提案した。

20Ftコンテナに適合した寸法であること、最高時速90km、未舗装路の走行能力、装甲兵員輸送車相当の防護能力、東欧諸国では冷戦期に運用していたBaz-5921の後継として、水上航行機能も要件に盛り込まれている。

プロジェクトはOT-26の仮称を与えられ、駆動系をチェコが、外装と内装をポーランドが担当、4年後に試作車両が完成した。

タトラ製初となる12気筒水平対向エンジンは走行試験で炎上してしまったが、フランスからのエンジン供給の提案が転機となる。

HiMLRSに対抗して地上発射型スカルプEGの輸出を画策していたフランスにとっても、OT-26は行動範囲が広くベース車としての価値が高い。

事故からわずか1年後にはイスパノ・ライザが再設計したエンジンを搭載しての走行試験が行われ、ダート、水上走行、登坂全ての項目をクリア。

ところがタトラ製のエンジンが搭載できなかったことを理由にチェコ政府から調達予算を削減するよう圧力が加わり、原価そのものも320万ユーロに跳ね上がってしまった。

頼みの綱であるフランスの海兵隊も僅か50両の発注にとどまり、チェコ陸軍が削減した80両の穴を埋めるには到底足りない。

ところがニューカレドニアにおける災害救助で圧倒的な輸送能力を発揮し評価が一変、フランス海兵隊からの追加発注のみならず、フィンランドルーマニアが100両単位の配備計画を発表した。

巡航ミサイル発射型やドローン管制型など空軍力に欠ける途上国にとって魅力的な派生型がユーロサトリに出展されたことで、東欧やアフリカで関心を見せる組織も出始めている。

 

VOT(大型装甲輸送車)は弾道ミサイル輸送起立発射機に匹敵する全長10.8m、乾燥重量26tの輸送車両である。

チェコのタトラ社は輸出向け軍用トラックの生産も行っているが、ソ連の水陸両用大型車は専らブリャンスク自動車工場の製品であり、OT-26の設計は手探りで行われた。

特徴的な鋭角の舳先は浮力ブロックであり、20Ftコンテナに合わせて底上げした運転席の直下に水平対向エンジンを寝かせている。

パワーパックは後方から取り出す他なく、メンテナンスの際には先にモジュールを分離しなければならない。

幅員は一般道を通行するため2.5mに収め、比較的小径のタイヤを大量に並べることで車高も3.6mに抑えた。

イスパノ・ライザ製の水平対向12気筒ディーゼルエンジンはクアッド式の過給機を備え、最大出力720shpで14輪のタイヤを駆動する。

前2列と後1列を操舵することができるが、ロール方向の安定性が低いため高速走行時の急旋回はマニュアルで禁止された。

後部のウォータージェットはプロペラシャフトに機械接続され、最高時速14kmでの水上走行が可能。

水上では車高が逆に喫水の深さとして車体の安定性を高め、揚陸艦から直に発進する運用を実現している。

 

モノコックの素材は軽さを重視して難燃性FRPを選択し、上からボロンカーバイドのタイルと薄い鋼板で覆っている。

運転手と助手は装甲車同様にキューポラ付きの上面ハッチから搭乗し、後に平時用として外付け式の風防が製造された。

一方でミラーのステーはフロントライトの保護も担っており、有事の際にも着脱はしない。

地雷に対する備えとして底面を外側に傾斜させ、予備のホイールを装備するのではなく、多数の車輪を場合により融通することで損傷に対応する。

車体後方はモジュール化され、PLS以外にも兵員輸送型、救急型など複数のモジュールが開発された。

 

全てのVOTシリーズの基本形はVOT-PLSである。

20Ftコンテナの積み下ろし装置を持ち、配送先から迅速に離脱することができる。

従来型の10tトラックでは進出不能な前線や湿地帯への大量輸送が実現し、中でも車両や建築資材など大型貨物の運搬は他の車両で代替することが難しい。

またVOT-PLSと同時に兵員輸送モジュールを搭載したVKOTがリリースされた。

VKOTのキャビンは前後6.2m、幅2.1m、高さ1.8mと40名を収容可能な広さがあるが、20ftコンテナと比較すると車高に余裕があり、上面にRWSを懸架できる。

機関砲弾や榴弾片に耐えられるようセラミックの装甲板に加え、構造材に鋼材が用いられた。

次いでリリースされた指揮通信機能を持たせたVOT-R2はタレス製のTDMA情報共有システムを備え、GPSを利用せず自機のレーダーとドローンの画像から位置情報を算出しマップを構築する機能を持つ。

スカルプEGの輸送起立発射機であるVOT-TRもまたフランスの技術力によって追加された派生型である。

油圧機構で起立する7.0mのキャニスター4本に加え、展開式のアウトリガーが装備された。

製造元のフランスよりも地対地ミサイルの運用歴を持つ東欧やアフリカで需要が厚く、合計150両程度の調達が見込まれている。

シルヴァーVLSと同一の寸法なのでMICAVLやアスターも収納可能な筈だが、防空レーダーをVOTに搭載する計画は今のところ確認されていない。

 

各種派生型の中でも際立って耳目を集めたのはドローン管制型のVOT-ODである。

ドローンによる近接航空支援が陸上戦の勝敗を左右するとして、ポーランド陸軍はドローン専用車両の開発を急務とした。

隙間なく積載するために横幅の狭いドローンが新規開発され、格納庫にはドローンを自動で車外に送り出す機構が搭載されている。

上部ハッチと一体化した伸縮式のマスト先端部には、敵による傍受を遅らせるため指向性の高いループアンテナが内蔵された。

マストの高さは地表から20m、ドローンの高度を上げれば通信可能距離は最大50kmに達する。

ただし乗員だけで同時に操作できるドローンは二機にとどまり、一機当たりの兵器搭載量を増加させることで補うものとされた。

搭載スペースに合わせて前後2m程度まで大型化され、一機で6発の60mm迫撃砲弾、あるいは1発の120mm成形炸薬弾を搭載できる。

車載用ドローンはダッソー製で、横一列に並べて送り出せるよう二枚羽の二重反転ローターを持つ細身のヘリコプター型が選択された。

メインローターにはサイクリックピッチ機構が採用され、テールブームの動翼はヨーイングをコントロールする一枚しかない。

また英ヘイズに対抗すべく、タレスは独自に人工衛星に対してSIGINTと妨害を行うVOT-EUモジュールの計画を発表した。