偵察、着弾観測、近接航空支援にドローンが多用されるようになり、EU諸国は効率的な対抗手段を必要としていた。
小型のドローンを対空ミサイルで撃墜すると費用対効果が悪く、対空機関砲は老朽化が著しい。
イギリス、ドイツ、イタリアは本格的電子妨害機の導入を検討し、BEA、MBB、レオナルドによる合弁会社ユーロ・ラディエーションを立ち上げた。
マルチロール機の追加装備では地上部隊の支援や首脳会議の警備には不適とされ、ユーロ・ラディエーションは亜音速機による後方からのスタンドオフ妨害を選択している。
完成した機体はHaze(靄)と名付けられ、翌年のユーロ・サトリに出展された。
Hazeは戦闘機ベースのエスコート・ジャマーではなく、旅客機ベースのスタンドオフ・ジャマーである。
ただ妨害距離を最大化するため、胴体の右側には巨大な妨害ポッドが二つ目の胴体として搭載された。
機体の右側しかカバーできない代わり胴体の加重が左右に分散され、全備重量31tながら翼幅は42.2mに達する。
妨害電波の発振器はレオナルド製で、通信妨害用のHaze1と索敵妨害用のHaze2が装備された。
Haze1は出力52kW、射程は127km、5M~8GHzの無指向性電波を24チャンネルで同時発信し、Haze2は出力28kW、射程は264km、1~21GHzのビームを12チャンネル同時発信することができる。
機体上面には通信傍受用のロッドアンテナ、翼端にはレーダー波の探知機を備え、検知から捜索までの工程は完全に自動化された。
電子攻撃中、Hazeは護衛対称の上空を3機体制で旋回するか、攻撃部隊の後方を2交代制で横向きに往復する。
低速飛行時の燃費が重視され、二基のBR-710-48によりマッハ0.52で約10時間の連続飛を実現した。
機体規模が大きく離着陸には中規模以上の飛行場が要求されるが、滑走距離は600m以下でも支障がない。
重心を胴体中央に近づけるため、ラファエル製のケルビム迎撃システムがコクピットとCICの間に配置された。
ケルビムは80KW級のファイバーレーザーで、発振器は胴体内部に固定され稼働するペリスコープにより全周、俯角0~72度の目標を攻撃可能。
長距離対空ミサイルの撃墜も可能とされているが、同時に電波妨害を行うだけの電源はない。
CICは4席を備え、通信妨害要員一名、レーダー妨害要員一名、分析要員一名、火器管制要員一名が搭乗する。
キャビン中央に通路があり、機体後部下面に階段付きハッチが設けられた。
初期型にはミサイル用のパイロンがなかったが、後に対レーダーミサイル、徘徊型兵器の運用能力が追加された。
先端装備の多さはコスト増と途上国への輸出制限という二つの形で単価に跳ね返り、発表当初のセールスは無きに等しいものである。
イギリスが6機、ドイツが3機、イタリアが4機の契約を取り結んだものの、SEAD機ではない専任の電子攻撃機を導入した経験のある空軍はなく、海軍から技官を借りるなど見えない導入コストが上乗せされた。
各国で予算審議会からの激しい反発を受け、ラインの早期閉鎖が幾度となく取り沙汰される中、ユーロ・ラディエーションはイスラエルとフランスからもかろうじて発注を取り付け、日本にもセールスをかけている。
風向きが変わったのは発表から3年後、ジャカルタG20会合の会場警備におけるドローン襲撃事件以降である。
英独が派遣した2機のHazeはイスラム国の残党が洋上から発進させた市販品を含む300機近い偵察、攻撃用ドローンを悉く無力化し、対地・対艦攻撃のドローンシフトから有人機への揺り戻しが巻き起こった。