ふたり回し

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コーサルカス/アーンギラサ

上海協力機構の取り込み工作によりイラン包囲網が瓦解し、イスラエルは一転包囲される立場に逆戻りしつつある。

東側の大軍によって滅ぼされるという一種の強迫観念に取りつかれ、イスラエル国防軍アラブ諸国連合の脆弱な部分を効率的に撃滅する手段を模索していた。

だが突破して後方を攻撃するにも、現代の陸戦では視覚外戦闘の手段が増え、機甲突破は現実的なものではなくなっている。

野戦場において突破を実現する手段が残されているとすれば、それは航空戦力に他ならない。

窮地に立たされたイスラエルは、起死回生の超兵器として防空網制圧と阻止攻撃を重視した大型襲撃機の開発へと突き進んだ。

イスラエルは過去に共同開発の実績があるインドとブラジルに参加を要請したものの、ブラジルは大規模な野戦を実施する可能性は低く不参加。

一方インドはバルチスタン紛争で強撃七型から受けた損害からいち早く立ち直る必要があり、また対抗機種の必要性を痛切に実感している。

両国はIAIとHAIによる合同事業MITA(第三同盟軍事工業グループ)を立ち上げ、旧ソ連圏から逃亡した設計者を大量に引き入れ次世代重襲撃機の研究を開始した。

計画にはイリューシン社内で眠っていたSu-25の後継機開発計画とそれに関連する複数の技術試験の資料が応用され、第三同盟を標榜しつつも実質的にMITAの事業はソ連の直系にあたる。

次世代襲撃機が中東で東側の陸上戦力に対して用いられるであろうことは、中ソ論争以降最大の皮肉であった。

 

MITAは内部でイスラエルチーム、ヒンドスタンチーム、イリューシンチーム、スホーイチームに4つのプランを提出させた。

全体では生産性を優先した小型の攻撃機が大勢を占め、イスラエルチーム案以外に大型機の案はない。

MITAは小型機の装甲と外付けのECMでは現代的な対空砲火に耐えられないとして大型機案を選定したが、パイロット不足に悩むイスラエル国防軍の横槍が原因という指摘もある。

設計が開始されるとチームは統合され、境界層吸い込み口のフェンスから実験用の風洞に至るまでIAIの技師はまるで歯が立たず、確かな実績を持つイリューシンスホーイ出身者が開発を主導した。

特にエンジンの製造技術はインド、イスラエル共に未熟であり、イーウチェンコやクズネツォフから引き抜かれた設計技師がいなければエンジン供給の停止によって開発が頓挫していたとの見方も根強い。

当初は爆撃機に匹敵する翼幅40mの機体に運動性に問題があるのではないかという疑問がついて回ったが、完成した試作機は高い安定性と素直な挙動を見せプレスを驚かせた。

本機をイスラエル空軍ではコーサルカス(裁きの盃)、インド空軍ではアーンギラサ(呪詛を司る一族)としてそれぞれ毎年12機ずつ、10年に渡って調達を続ける計画である。

調達はもちろん開発にも1,000億ドル単位の予算が見込まれ、軍事評論家の間でも計画倒れになるというのが常識であったが、イスラエルは陸軍隷下に編入して陸軍の予算を流用し、アメリカの財界や福音派の教会で融資を募るなど過激な金策を敢行。

製造工場をほとんどインドに建設したことも功を奏し、初期ロットのユニット単価は4,700万ドル、開発費用は260億ドルまで圧縮、予定の半分ずつではあるが機体の配備が開始された。

 

コーサルカスは60年代のイギリス戦闘機を彷彿とさせるツインブーム式の大型襲撃機である。

誘爆を防ぐのではなく装甲によって保護するというアプローチをとったためエンジンは機体中心にしまい込まれ、両サイドに長いブームを伸ばすことで安定性を確保した。

ブームの先の水平尾翼は独立して稼働し、一方のブームが破断した際にも残った尾翼で機体を操縦できる。

主翼は低速、低空での運動性や離着陸速度に優れた翼幅38.2mの直線翼であり、燃料タンクは内蔵せず構造材にボロン繊維FRPが使用された。

後縁の動翼は純粋なフラップであり、主にスポイラーを利用して旋回するためリバースエルロンの恐れはない。

主翼付け根のバルジには低圧タイヤを履いた前後二輪の主脚を内蔵し、機重42t以下ならば不整地でも問題なく着陸可能。

超々ジュラルミンハニカム板を底面のモノコックに使用し、ハニカムの中に30mm厚のボロンカーバイド製タイル、外皮の上にはボロン繊維FRPを張り合わせ内装を保護する装甲とした。

コクピットの内側はさらに厚さ40㎜のタングステンカーバイドで固められ、パイロットはペリスコープとディスプレイを頼りに操縦しなければならない。

IRST/FSIRに加え離着陸用の大型ペリスコープを下面に装備したことが、下側に張り出した特徴的なシルエットを生み出した。

火器とECMのコンソールは後席に集中し、乗降する際には折りたたみ壁面に収納される。

最大離陸重量は52.3tだが、分厚い装甲と引き換えに乾燥重量は31.7tまで膨れ上がってしまった。

 

メインエンジンであるTS-142FギヤードターボファンはGTRE製だが、機体同様実際はD-136の後継機種である。

加えてファンとコアは同軸ではなく正面から検知されにくいようコアが内側にオフセットされ、全体のレイアウトは推進式のターボプロップに近い。

コアは全長が3,673mm、直径が1,092mm、4段の低圧圧縮機を2段の低圧タービン、6段の高圧圧縮機を1段の高圧タービンによって駆動。

複合材で構成された2段のプロップファンは直径が2.1m、4段のフリータービンによって互いに反転する。

ダクトの後部を増速のために絞り込み、ノズルも2次元形状を取り入れることで後方からの探知距離を短縮した。

燃焼器に圧縮空気を吹き込む特殊なスターターを使用し、低圧ファン前方のシャフトが籠型の発電機を駆動する。

補器、駆動系を含むエンジン全体の重量は2,275kg、地上での最大推力は159kNを記録した。

エンジンと主脚の間には自動防漏式の燃料槽が設けられ、時速580kmで8時間の無補給連続飛行に耐える。

 

装甲に加えてソフトキル能力も重視され、コーサルカスには専門の電子戦機と同等の探知・妨害装置が搭載された。

エルタ製EL/M-20603電波支援装置は4基のフェーズドアレイレーダーからなり、主翼付け根のバルジ前縁と後縁に設置されている。

火器管制レーダーに対応するEL/L-8248電子妨害装置は16kW相当のホーンリフレクタアンテナを持ち、胴体下面のレドームに内蔵された。

また照準の妨害に際してはテイルブームのディスペンサーからフレアとチャフのいずれかが電子妨害に連動して放出される。

ウィングフェンス兼用のEL/L-8451通信妨害装置は無指向性の電波を発信し、着弾観測や支援の要請、ドローンの操作などを阻止することで友軍の地上部隊の生存率を大きく向上させた。

機首両側やテイルブーム下面に分散配置されたフライトガードⅢIRCMは短距離対空ミサイルに対応している。

 

主翼下面のパイロンは左右計16本、通常自衛用の対空火器や大小の対戦車ミサイル、滑空爆弾などを運用するが対艦ミサイルも運用不能ではない。

機関砲は射程の問題で搭載されず、軟目標にはCRV7などで対応する。

輸送機に並ぶ大型機ではあるが、装甲の重量が優先された結果ペイロードは最大9.2tにとどまった。

機首のEL/M-2281火器管制レーダーは300km前後の探知距離を誇り、同時に16の動目標を追跡および攻撃することができる。

 

エヴェンに続くコーサルカスの開発はEUへの兵器輸出を絶やす結果につながってしまったものの、本機の絶対的な耐久力は第三同盟の象徴として受け止められた。

ナイジェリアや南アフリカ、フィリピン、アルゼンチンなど反欧米感情の薄い途上国を引き込み、上海協力機構を引き裂きつつある。

本機が国境のパトロールに参加すると通信が途絶することで相手国も否応なく存在を意識させられ、慎重路線を取る国が増えた結果初の実戦投入の場は中東ではなくなった。

意外にもインドによるニジェール紛争への介入が中東紛争よりも先に行われ、強撃七型どころか味方機をエスコートしていた殲撃二十型を対レーダーミサイルで返り討ちにする金星を上げている。

スペイン空軍やトルコ空軍が導入に対して前向きな姿勢を見せており、MITAは株主に対し2050年までには初期投資が回収できるとの見通しを示した。