ふたり回し

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エヴェン/ヴィジャヤ/EMB-318

f-35の導入に続き、イスラエル空軍はイラン、シリアに対する通商破壊に投入可能な機体を求めていた。

対艦ミサイルの搭載自体は既存の戦闘爆撃機にも可能だが、いずれも設計が古くミサイルも外装で装備するほかない。

戦略爆撃機のような攻撃的な兵器をアメリカが他国へ輸出する見込みも薄く、イスラエルは同様の野心を抱えるインド、ブラジルに航続距離に優れたステルス攻撃機の共同開発を提案した。

開発にあたってはアビオニクスと素材をIAI、胴体とコクピットをHAL、エンジンと主翼降着装置をエンブラエルが担当するものとされ、資金の50%をイスラエル、残りの25%ずつをインドとブラジルが負担する。

輸出規制による頓挫を回避すべく、エンジン他最大限の部材を一般のリージョナルジェットと共通化し、ブラジル国内の工場で生産する措置が取られた。

 

優先配備を条件にトルコからの受注予約も受け付けることができたものの、4か国の資金を合計したところで米空軍には遠く及ばない。

三カ国会議の結果必要とされたのは、巡航ミサイル一本を内蔵可能な最小限の爆弾槽である。

ただ巡航ミサイル一本の要件で早々に対立が生じ、自軍のブラモスに機体を対応させるようインドが強硬に主張。

イスラエルとブラジルからはコストの増加を懸念する声が強く、一時は計画からの「インド外し」も検討されている。

インドは渋々庁両国にブラモスの供給を保証し、開発計画に復帰させた。

一方エンブラエルの要望によりEBM-145に極力近いレイアウトを採用したことで開発期間が5年に短縮され、全体の開発費用は120億USドル未満に納まっている。

 

完成した機体には三カ国でそれぞれ異なる公称が与えられ、イスラエルではエヴェン(石、メシアの象徴)、インドではヴジャヤ(アルジュナの宿敵カルナの弓)、ブラジルではEMB-318と呼称される。

胴は全長20.8mとEBM-145より一回り小さく、レーダー反射面積を低減するため下膨れの断面を持ち輪郭にはチャインが付けられた。

加えて平行線を意識したロングスパンの後退翼と、大きめのペリカンテールを持つ。

胴の大部分は爆弾槽となっており、インドの要望通りブラモスを搭載可能。

艦対空ミサイルを上回る300kmの長射程はインド洋におけるパワーバランスを大きく変化させた。

ブラモスの有無が機体の性格を決定づけたという見方が強まり、胴体延長に関するインドへの批判も今では聞かれない。

ADM-141やハーピーなどの防空網制圧用装備に対応している他、遠距離進出の際には戦闘機の随伴が困難なことから、アローやアストラなど長射程の空対空ミサイルを搭載した本機が僚機をエスコートする場合がある。

 

開発に際してアメリカからの反発が予想されたため、旅客機用のシルバークレストがメインエンジンに選定された。

二基の推力を合計しても90kN止まりだが航続距離を稼ぐ上では低出力のターボファンエンジンは都合がよく、本機は増槽なしでも8,000kmのフェリー航続距離を誇る。

またカーボン材を多用した翼幅30.2mの機体は低速でも難なく離陸することが出来、最大2.8tまでの兵器を搭載可能。

本機のみの編隊で遠隔地に進出できるよう、ウェポンベイに増槽を搭載し後方警戒レーダーをドローグと交換した給油型も製造された。

エンジンが主翼の上側後方に配置されているため、下方から見た際にはファンが主翼の陰に入りレーダーに映りにくくなっている。

ただこの利点は同時に欠点でもあり、大迎角時に主翼がエンジンと尾翼を遮ってしまうため激しい機動を行うことは出来ない。

 

ブラジル空軍に納品された10機を皮切りに、イスラエルに40機、インドに16機、トルコに10機と各国への配備が順調に進んでいる。

技術的に卓越した側面がないにも関わらず、常任理事国以外が遠隔地の空爆が可能な通常戦力を保有しているという事態は東西両陣営から衝撃を以て受け止められた。

配備後間もなくインドとイスラエルが他国の領内でイスラム過激派組織のアジトを攻撃し始め、各国の懸念が間違いではなかったことが明らかになりつつある。

唯一ブラジルでは密輸、密漁やせどりの妨害が主な任務であり、今の所実弾による攻撃は行われていない。

低コスト化を重視して開発されたこともあり、既に二次発注が行われインドとトルコの配備数が50機を超える見通し。

エンジンの販売元であるフランスもダッソーによる攻撃機の独自開発路線が行き詰まりを見せ、20数機の調達の意向を示した。

サウジアラビア南アフリカに加えフィリピンも導入を検討していることから、中国による反発も強まりアジア全体の不安定化が危ぶまれている。