ふたり回し

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ヤツィブ/28式対空戦闘車/ナクル

 

自衛隊の装甲車両は輸出制限のために量産効果を得られず、単価の高騰と調達数の減少の悪循環が発生し、国内企業の撤退が相次いでいる。

防衛省はこの問題を解決するため友好国との共同開発、部分的な逆輸入を提案、工業生産力が高く兵器の国産化を急ぐインドがパートナーに選ばれた。

両国が最初に進めたのは、次世代装軌式プラットフォーム開発計画である。

装甲兵員輸送車、対空自走砲、自走榴弾砲の車体を最大限共通化し、量産効果を引き上げることでコストと期間の圧縮が図られた。

さらに開発途中で対空自走砲に搭載するバラクⅠの製造元であるイスラエルが計画に加わり、最終的な日印の負担は当初の五割以下に低下したとされる。

設計にあたっては駆動系と履帯、内装を日本、フレームと装甲、ベトロニクスをインド、火器、センサー類と火器管制装置をイスラエルが担当、機械部品は日本、本体と組み立てはインドで行われる運びとなった。

最大限インド産にすることでプラットフォーム単体の価格は200万ドルに収まり、日本とイスラエルでは革命的なコストダウンが実現している。

 

共通プラットフォームの基本方針は大型砲塔の廃止と上面装甲の強化である。

近年装軌車両の損失においては間接射撃と近接航空支援によるトップアタックの割合が上昇しており、三菱・DRDOの開発チームは主力戦車同士の直接戦闘は今後も減少し続けるという結論に達した。

近接航空支援、対空戦闘、歩兵による偵察、間接射撃、地雷と陣地による防御だけで作戦が成立するならば、直接射撃のための全周をカバーする砲塔は必要ない。

一方最新鋭の主力戦車でさえもドローンを含む誘導兵器や地雷、榴弾砲に対する防護は明白に不足しており、装甲と迎撃装置には一層の強化が求められる。

砲塔を排した分車高を上げ、浮いた重量を装甲に充てることで車高は3.2m、横幅3.4m、車体長6.5m、重量42.7tまで大型化した。

後部ハッチを含めた全面に100mmマルエージング鋼の装甲が施され、その上から300㎜の複合装甲ブロックが固定されている。

装甲ブロックの材質には東レや日本製鋼など日本企業の監修が入り、NATO標準の120mm徹甲弾のみならず、AGM‐65の直撃に耐えてみせた。

加えてブロックエンジンブロックを最前部に配置、中央部は交換モジュールが入るため運転手と機銃手の座席はキャビンの後端に設けられ、弱点となる上部ハッチは存在しない。

車体で視界が遮られる分はペリスコープを大型化し、邪魔にならないようRWSはキューポラの中央にマウントされ、トロフィーⅡはキューポラ付近を避け前方のみをカバーしている。

 

共通プラットフォームの車体重量はいずれの装備を選択した際も90式を超えてしまうため、馬力に余裕を見て1,800sp/2,500rpmの4サイクル水平対向12気筒ディーゼルエンジンが搭載されている。

10式の静油圧式無段階自動変速機を大型化した専用のトランスミッションも相まって本型の駆動系は強力な加速力を発揮、輸送型は地雷処理装置を装備したまま最高時速43kmを記録した。

平均600m/lの高燃費は問題視されたものの、燃料搭載量1,400lを確保し作戦中も12時間は補給の必要がない。

昨今の装軌車両としては珍しくハンドル式を採用せず、運転手の負担を受け入れレバーによる操縦形式をとり柔軟な機動を実現している。

転輪には個別に制御された油気圧式サスペンションを装備、傾斜地においても攻撃に支障が生じることはない。

インテークマニホールドは上部シュノーケルにつながり、排気口は内部でクランク状に曲がり、内側の装甲がエンジン部を保護している。

 

三つの初期案のうち、最初の試作車両には単純な兵員輸送型が選ばれた。

運転手と機銃手の座席は通路を挟んで履帯上に位置し、前側に歩兵、後側に運転手が搭乗する通常とは逆の座席配置をとっている。

本型は歩兵戦闘車と異なり積極的な火力支援に従事することは想定されておらず、M2相当のミニ・サムソン以下のRWSしか装備することができない。

派生型の中で最も駆動力に余裕があり、兵員が展開した後は地雷処理に活躍する。

イスラエル以外で重装甲の兵員輸送車は物珍しく、高燃費が煙たがられる一方、コンセプトと裏腹に最前線で盾として利用されるケースも散見された。

28式重装甲輸送車は89式を、インド陸軍ではサハドがBTR-90とBMP-3を更新しており、既に重装甲のナメルを保有するイスラエル陸軍においても調達が検討されている。

 

派生型のうち、3か国にとって実質的な本命は対空型であった。

近距離防空の主軸が機関砲から赤外線誘導ミサイルに移って久しく、効率的にドローンを撃墜可能な自走対空砲は軒並み老朽化している。

着弾観測・支援火力の両面で小型ドローンは地上部隊を脅威にさらしており、観測を阻止することで榴弾砲による攻撃も妨害可能。

開発チームは攻撃ヘリ攻撃機も含めた低高度目標の迎撃能力が地上部隊の生残を決定するものと結論付けた。

本型は小型目標にはM134、ヘリや攻撃機に対しては小型艦艇にも搭載されているバラクの8連装VLSを使い分けることで幅広い脅威に対処する。

M134を搭載するミニ・サムソンは追尾レーダーと捜索レーダーを追加するため弾倉と光学センサーの配置が変更された。

誘爆への対策として、VLSの前後はフェロニッケルの隔壁で遮蔽されている。

イスラエル陸軍ではヤツィブ(厩)、日本では28式対空戦闘車、インド陸軍ではナクルとして調達が開始された。

本型の重装甲は最前線の部隊への随伴を実現したが、高度な対空システムのせいで600万ドルまで単価が上昇し、インドでの配備は想定通りに進んでいない。

 

またイスラエル陸軍では装軌式自走砲の再評価が起こり、自走砲型もラインナップに加えられた。

砲自体はATMOS2000の155㎜榴弾砲を移植したものだが、自動迎撃装置と引き換えに日本から自動装填装置の技術を取得、毎分8発の持続射撃が可能である。

自動装填装置のおかげで戦闘室と榴弾砲機関部を分離でき、ケブラーで目張りされた厚さ40mmのタングステンカーバイドの隔壁が設けられた。

上下は俯角4~仰角60度、左右30度の射角を有し、GPSとINSにより現在位置を測位、各国のデータリンクと連動し選択した目標・地点に砲撃する。

車長が小銃手を兼ねれば最小3名でも運用可能なほか、非常時に備え4人目にアナログ射撃用のコリメーターを運用させる部隊も少なくない。

イスラエル陸軍はギデオンとして本型をレバノンに投入、榴弾砲の直撃に耐えながら砲兵戦を一方的に制する大戦果を上げ、インド陸軍でもK9の調達が前倒しで終了する運びとなった。

 

このほかにも輸送型をベースに救急型や指揮通信型などの派生型が発表され、共通プラットフォームは三国に加えトルコやアゼルバイジャンでの配備が進められている。