ふたり回し

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カードの使用条件とデッキの機能分化―4

これまでは、どんなカードがどのようにしてカードの使用可能性を操作するのかを見てきました。

今回は、総まとめとして、デッキが事故をいかに避けているのかを検証します。

速攻とは何か、コントロールとは何か、そして、エンジンとは何か。

カードの使用可能性を切り口に、構造体としての「デッキ」の本質に迫ります。


・二つの対立の克服

少し第0回のお話に戻ってみましょう。

この講義のはじめに申し上げたのは、「カードの使用条件は二つある」ということです。

・手札に加えること

・マナを用意すること

でしたね。

そして、「手札に加えること」は個々のカードごとに独立していて、対立し合っているということもお話ししました。

そして、そのために、個々のカードの使用条件の間に二種類の対立が生じているということも。

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この二種類の対立をいかに解決するかは、デッキにとっての大きな課題です。

この対立を解決しなくては、デッキの中のカードを十分に使うことができず、デュエルに勝つことができないからです。

今回は、既存のデッキタイプがいかにこの問題を克服しているかを探りつつ、デッキの本質に迫ります。


・均質化による解決法―速攻の「真実」

メタゲームに登場するデッキの内、速攻デッキだけは誰でも簡単に作ることができます。

カードの価値が低いこともさることながら、構造も操作も簡潔であることが、最たる原因ではないでしょうか。

そして、子供たちのデュエルにおいて、速攻とブロッカーデッキが勢力を二強であるのも、等しく簡潔さのため。

それもそのはず、この簡潔さこそが二種類の対立に対する第一の解決策なのです。


最も単純な速攻である赤単速攻の場合、デッキの大半は軽量なクリーチャーです。

そして、残りが相手のブロッカーを退かせるための除去と、防御用のトリガーに充てられます。

ドローも回収もブーストもなしで、速攻は一体なぜちゃんと機能するのでしょうか。

上で申し上げた通り、その秘密が速攻の持っている最大の特徴なのです。


それでは、速攻デッキは一体どこにその秘密を隠し持っているのでしょうか。

その答えは、速攻の最もシンプルな部分にあります。

検討のため、第1回で作ったグラフを用いて、速攻を分析してみましょう。

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第一に注目していただきたいのは、緑色の部分、マナからの負担が非常に小さいことです。

短期決戦を狙い、ドローもしない速攻のカード総使用量は限られています。

が、マナからの負担が小さければ、その分カードの使用可能性を増加させることができます。


第二に注目していただきたいのは、見たままですが、攻撃できるクリーチャーの比率が高いことです。

ドローしなくても、攻撃に専念し、攻撃用のカードばかりを積めば、出てくるカードの大半は「使える」カード。

デッキの単機能化と均質化によって、速攻は必要なカードを実に的確に「手札に加える」ことができるのです。


この二つの側面から、速攻は対立の克服を放棄したデッキではないことが分かります。

低コストのカードを用いることによって「手札とマナの対立」を、デッキの均質性によって「カード同士の対立」を。

速攻というデッキは、見事に解決しているのです。

速攻の軽量クリーチャーが、エンジンを内蔵していると言ってしまってもかまいません。

「コストの低さ」という形で「マナを用意」し、「大量投入」という形で「手札を用意する」

速攻の軽量クリーチャーは、一体一体がデュエルに必要な機能を兼ね備えた、いわば単細胞生物なのです。



・カード間の機能分化による解決法―コントロールの発生

ところが、実際のメタゲームを見渡してみると、速攻以外にもさまざまな種類のデッキが存在しています。

とりわけ、たくさんの種類のカードが少しずつ入っている、コントロールデッキ(ブースト含む)が目立ちますね。

ここで、コントロールデッキ(仮)のカード使用可能性を図式化したものを取り上げてみます。

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コストが重くて動きが遅く、攻撃できないカードだらけのコントロールデッキ。

先ほどの速攻の説明だけで考えると、どうしようもないデッキタイプのように思われるかもしれません。

速攻とは正反対の性質を持つコントロールデッキがなぜ強力なのかといえば、それは重いカードほど強いからです。

コストの高いカードは、出てくるのが遅く、マナからの負担を引き起こします。

それでも使われているのは、それに見合った強力な効果や能力を持ち合わせているためです。


ここまでは、誰にいわれずともカードを見ればすぐにわかることです。

問題は、この次のステップ。

「攻撃用のカードの使用可能性が低いコントロールデッキが、どうして戦うことができるのか。」

違いますね。

攻撃用のカードの使用可能性問題が高いからこそ、コントロールデッキは勝つことができるのです。

ですから、本当の問題は、

「コントロールデッキは、高コスト化、カードの多様化に反し、いかにしてカードの使用可能性を維持しているか」

というところにあります。

そしてその答えはもちろん、この多様さの中にあります。


この問題を考えるために、速攻の軽量クリーチャーの機能を思い出してみましょう。

彼らは、コストの低さと大量投入という形で、「マナを用意する」機能と「手札に加える」機能を内蔵しています。

大型クリーチャーは、「マナを用意する」機能も「手札に加える」機能も持っていません。

では、この二つの機能はどこに行ったのか。

それが、「ブースト用カード」「ドロー用カード」の正体なのです。

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マナの問題をブーストに、手札の問題をドローに任せることによって、クリーチャーはより大きく、強くなります。

カード間の機能分化と、個々のカードの機能特化が、大型化のカギなのです。

ブーストはマナの負担と闘い、ドローは手札を増やすことでカードの総使用量を増やす。

防御、除去、ハンデスは、試合を長引かせることでカードの総使用量を増やす。

細胞間の役割分担によって、生物が高度な機能を手に入れたのと、同じ現象ですね。


「カード間の対立」、「手札とマナの対立」という共通の問題を、正反対の方法で克服する二つのデッキ。

それは、単細胞生物が機能分化によって多細胞生物へと進化していった過程の再現です。

しかし、このことはより複雑なデッキが優れていることを意味しているわけではありません。

単純なデッキは単純なデッキの、複雑なデッキは複雑なデッキの解決法によって、事故を防ぎ、生き延びている―

私たちはこの長いコラムを経て、当たり前の事実を確認しただけです。

当たり前の裏側に、真実が隠されていないということ、それが、今回の最大の成果なのです。


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