ふたり回し

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襲撃

結構悩んだ護送車襲撃シーン。


 紺色のスーツを着た男に、刑事はあえなくフリスビーを渡してしまった。とにかく今は粛々と捕まる外ない。アレクは後ろ手に手錠をかけられ、銃につつかれながら黙って護送車に乗り込んだ。護送車の中は薄暗く、窓は小さい上に格子まで付いている。アレクには銃を抱いた3人の見張りが付き、身動き一つとれそうにない。

 末路の上を走り続ける護送車に揺られながら、アレクは見張りに気付かれぬよう鼻で静かに息をついた。とうとう来るべきものが来た。実にカルラの言った通りになってしまった。手を打つというのも嘘ではないのだろうが、今のところ、見張り達が渡って種明かしをしてくれる気配はない。君も災難だったなあ、あの刑事の顔を見たか? なに、偉そうにしている奴ほど、お上には頭が上がらないものさ、等々。

「あの、俺、テロリストから保護してもらえるって聞いて来たんですけど、これはどういう……」

 アレクは身をすくめ、車内にせわしなく目を泳がせながら訊ねた。

「我々に回答の義務はない。黙って指示に従え」

 隣に座っていた見張りに銃を突き付けられ、アレクは唇を結んで畏まった。見張りは銃を下ろしたが厳しい監視が解かれることはなく、厳めしい静けさだけが護送車の中に降り積もってゆく。外の様子も全く見えず、どれだけ時間がたったのか、今どこを走っているのか、まったくもって見当がつかなくなった頃、護送車がゆっくりと止まり、運転席の扉が開く音がした。

 目的地に着いたのだろうか。基地、研究所、或は政治犯の収容所。アレクは背を伸ばして大きく息を吸い込み、尋問の覚悟を決めた。カルラの指示通り、とにかく白を切るしかない。

 ところが、次にアレクが耳にしたのは隊員の指示ではなかった。分厚い鉄板を貫いて、鋭く重たい銃声が聞こえて来たのだ。

「おい、なんか始まってるぞ」

 見張りのうちの一人が立ち上がり、小銃のコッキングレバーを引いた。戦闘だ。何者かが護送車を襲っている。どうやら刑事の建前が、実現してしまったらしい。

「出るな。狙撃だ。籠城して味方を呼んだ方がいい」

 もう一人が立ち上がったとき、二つ目の銃声が鳴り響いた。一体式の手錠のせいで、アレクには頭を庇うことさえできない。年嵩の隊員がトランシーバーを取り出し、本部と連絡をとり始めた。

「こちらゴードン、狙撃だ。ユスフとイポリートがやられた。増援を頼む」

 隊員とトランシーバーが怒鳴り合っている間も、テロリストの銃撃は止まらない。今度は車体を狙って三発目、四発目と立て続けに撃ち込まれた。分厚い防弾ガラスの上に鉄格子までかけてあるというのに、研ぎ澄まされた銃声が夜を微かに震わせる度、銃弾は易々と窓を食いちぎってゆく。薄暗い車内にほとばしる尖った輝きの下でアレクはひたすら頭を伏せ、首に降りかかるガラス片のおぞましい肌触りに耐えた。

 敵はアレク達を弄んでいるのだろうか、人間には見向きもせず、銃弾はまだ護送車の窓を貪り続けている。若い隊員はしびれを切らしとうとう後部ハッチに手を付けたが、年上の隊員に取り押さえられた。

「止めろ、敵の狙いはこいつだ。当てて来る筈が無い」

 若い方の隊員は年上の隊員の言葉に振り向き、そして何かを見上げて声を上げた。銃声と比べるとあまりにも可愛らしい音を立てて床の上に転がったのは、拳大の手榴弾だ。アレクが身構える間もなく、計り知れない光と音が閃き、たちどころにアレク達を呑みこんだのだった。