ふたり回し

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☶☴(山風蠱)――その29

若干短いが、シーンの切れ目なのでこんなものだろうか?

28より続く


「『井は邑を改めて井を改めず。喪(うしな)うなく得るなし。往来井を井とす。汔(ほとん)ど至らんとしても、また未だ功あらざるなり。その瓶をやぶる、ここをもって凶なるなり』。国は変わっても井戸は変わらず人を養い続けるが、そのためには水を汲めるようにしておかなければなりません。変爻も九三『用いて汲むべし』。さしずめ今回は……機は既に熟しているのだから、ためらわず機を活かして大きな利を上げよ、といったところでしょうか。」

 リシュンは筮竹をそろえ、再び紐でくくった。

「今すぐにでも動くべきだというのはいいんですけど、利というのは?」

 シャビィの問いを、リシュンは受け流した。

「言わずもがな……私たちの目的を達することです。」

 リシュンは立ち上がって道具を片づけ、訝しがるシャビィを部屋の外に追い立てた。

「ジェンドラ大師に直接会って探りを入れてみます。着替えるので、出ていってください。」

 口出しできるわけもなく、シャビィはそそくさと逃げ出し、リシュンは箪笥の引き出しを開けて、じっくりと服を選んだ。この間の格好は硬すぎるかもしれない。下は白でいいとして、身構えさせないよう、上着は翠を選ぶべきか。

 箪笥から選んだ服を取り出してベッドの上に広げ、青灰色の普段着をベッドの背にかけて、リシュンはクワンの紐をほどいた。滑らかな音を立ててクワンから現れたのは、すらりと伸びた白い肢。薄絹のクワンに肢を通し、翠のアオザイにそでを通し、くるみボタンを引っ掛ければ、初々しい町娘に見えなくもない。

 リシュンは鏡の前に座って余った髪を一つにまとめ、蝶をかたどった小さな銀のクリップで右寄りにとめた。大分娘らしい愛嬌が出てきたが、鏡の中のリシュンにはまだどこかに圭角が残っている。白粉の上から薄く頬紅をさし、明るめの紅を引いてから、リシュンは少しだけ自分を値踏みして、笑顔で頷いた。後はこの表情を保つだけでよい。

 荷物をまとめて家を出ると、表には強張った顔でシャビィが突っ立っていた。

シャビィさんもこのような格好の方がお好みでしたか。」

 やはり坊主も男ですね。リシュンは冷ややかにシャビィを眺め、青白い溜息を吐きだした。

「私は、その、ついていかなくても大丈夫ですか?」

 シャビィの問いは、いかにも頼りなく響いた。

「今回は一人で上手くやりますよ。帰りしなに着替えを調達してきますから、今日のところは留守番で我慢して下さい。」

 リシュンはこともなげに言い置くと、軽い足取りで階段を上って行った。


30へ続く


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