いろいろと矛盾の出やすいシーンで、書いたり消したりの繰り返しです。
虎紳の問いに、シャビィはゆっくりと頷いた。
「ええ、寺院の秘密を知って閉じ込められてしまった私を、リシュンさんが助けてくださったんです。」
ランプの影に黒く染まった生暖かい雨足が、細くて明るい路地を駆けてゆく。
「今朝は妙に禅僧たちがせわしないと思ったが、そうか、確かに説明がつく。だが女、その男だけで足りるのか?」
虎紳の目が、リシュンに差し向けられた。
「いいえ。しかし、あなた方の力になって差し上げることはできます――知りたいのでしょう?あなたたちが追っている、寺院の資金源の正体を。」
リシュンの涼しい笑顔の上を、細かい雨がいくつも伝、尖った顎から滴り落ちて、冷たい石の段を叩いた。
「いらないな。ある程度は検討がついている。奴らは、胡椒の密輸を行っているのだ。」
虎紳の瞳は、頭上に雷が閃いてなお、動かぬ程に重く、堅い。青白く大きな影は、リシュン立ちの上にまざまざとのしかかった。
「ではひとつ伺いますが……」
リシュンは眉ひとつ動かさず、虎紳に問い返した。
「……もし本当に国境破りが捕まったとしたら、いの一番にあなた方のもとへ報せが届かない道理はございますか?」
探り合いが重なるほどに、シャビィと煬威が口を挟むわずかな隙間も失われてゆく。二人は軽く身構えたまま、リシュン達のやり取りを見守っている。
「あの話がすべて嘘だったというのか?……だが――」
虎紳は眉を寄せた。
「それなら、門主はなぜ黙って聞いていた?」
リシュンは虎紳の顔をよく検め、暫くしてから漸く口を開いた。
「話の続きを聞きたければ――」
ランプの映したリシュンの影は、湿った風に揺らめいている。
「――付いてきてください。雨の中で立ち話を続けるのもなんですから。お話しましょう、事件の真相と……簡単に門主を捕らえる、よい方法について。」
肩をたたいてシャビィに構えをとかせると、リシュンは鋭く踵を返した。雨音を裂く湿った足音は、嘘のように軽やかだ。二、三歩後ずさってから、シャビィはリシュンを追って駆け出し、二人の兵士も後に続いた。月の印はとうの昔に、雨に流れて消えていたのだ。
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