やっとこさ駆け引きっぽいシーンに突入。
次回はリシュンのハッタリが炸裂するかも。
男達に茶杯を配りながら、リシュンは再び説明を始めた。
「そうして、真相を確かめるついでに、門主に墓穴を掘ってもらうべく念を押してきたのです。」
温い雨をたくさん吸って重たくなった部屋の空気を、茶杯の置かれる冷たい音は留まることなくすり抜けてゆく。シャビィと虎紳は短く礼を述べ、緑茶が群れるのを待っていたが、
「おう、悪いな。」
煬威は茶杯の蓋を開けると、傷だらけの手で茶杯を掴み、喉を鳴らして勢いよく飲み干してしまった。虎紳はこれを見て小さくため息をつくと、再びリシュンに問いかけた。
「お前が密輸のことを知っていることの言い訳は、確かに門主を追い詰めたわけだ。だが占い師、そこから先の狙いは――追い詰められた門主を、だ。例えば騙すとして、奴に何をさせるつもりだ?」
胡座をかいて手を後ろについた煬威とは違い、虎紳の目はまだ鋭い光を宿している。
「私が門主に向かって、『黒幕は他にいる』と言ったことは覚えておいでですか?」
茶葉が広がったのを確かめ、あやふやな作法で緑茶をすするシャビィの隣で、虎紳は茶杯に手をつける素振りも見せず、静かにリシュンを窺っている。リシュンは茶杯の蓋をずらし、一口だけ熱い緑茶を口に含むと、火傷しないよう少しずつ飲み込んだ。
「そうそう、それよ。俺が分かんねぇのは。あんたも、門主も、寺院がやってるのは分かってるわけじゃん。なのによ、いきなり他に犯人がいるとか。門主も黙って付き合ってるし、おかしくねぇ?」
回りくどくもリシュンの垂らした形ばかりの手がかりに、勢いよく食いついたのは呑気な煬威のほうだった。
「いや、そこまでならまだ分かる。」
わざわざ伸ばした無精髭を撫でながら、そぞろな声で虎紳が答えた。
「この女は、悟られたくなかったんだ。自分が門主を疑っていることを。見破られれば、寺院に消されるのは目に見えているからな。門主も当然、自分が関わっているとは言えない。用意された狂言に乗るしかなかったんだろう。」
燈台の仄かな陰が光の中から掘り出した虎紳の顔をじっと見つめて、シャビィが眉を寄せている。虎紳は気づいていないふりをして話を続けた。
「だが、そこから先が分からない。護符の中身がどうのこうのと――あんな出鱈目に、なんの意味があるんだ。」
リシュンは卓子の下でしたたかにシャビィの脛をつねり、短く小さな返事をよこした。
「門主には、大帆行を黒幕に仕立て上げてもらいます。」
虎紳は小さく唸りながらようやく緑茶を口にして、大きく眉を開いた。
「美味いな。どこで手に入れた?」
話を半ば虎紳に任せていた煬威は、これをきいて大きく足を投げ出した。
「なんだ、そんなことかよ。……身代わりか。まあ、古狸の好きそうなことだがよ、それじゃあ却って捕まえられなくなっちまうぜ。こっちの兵隊を4,5人連れてってよ、今すぐにでも押しかけたほうが手っ取り早いんじゃねぇのか?」
リシュンは煬威を見て小さく笑い、のこった緑茶を飲み干した。頭の回る男ではないが、一応要点はわかっているらしい。煬威の提案こそは、リシュンの待ち受けていたものだったのだ。
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