圧縮成功。正しいかどうかはともかくとして、引き続き圧縮する予定。
「お連れの方は、いかがなさいますか?」
シャビィはだらしなく口を開けたまま、厨房の奥の方を虚ろな目で眺めている。目の焦点がどこにも合っていないが、その眼差しをたどった先には、上から吊るされた鶏の骸があった。
「鶏をサテにいたしましょうか。」
恐る恐るカマニが尋ねると、シャビィは我に返り、小さくのけぞった。
「とんでもない!い、いえ、その、豆腐にしてくださいませんか?」
縮み上がった目で見つめられてうろたえるカマニに、リシュンが助け舟を出した。
「豆腐のサテに、白ご飯をつけてください。」
少々お待ちください。カマニが注文を伝えに行くのを見送ると、パロームはシャビィをしげしげと見つめた。
「あんた、変わってるなぁ……肉より豆腐か。先生、そちらの兄さんは?」
シャビィの代わりに、リシュンはさらさらと嘘を並べた。
「カマニさんとだいたい同じですよ。シェブさんといって、スパッタニから丁稚奉公にきた人なのですが、ご存知のとおり不景気ですからね。奉公先の鍛冶屋が潰れて、路頭に迷っていたところなのです。」
このいかにもありがちな話を、パロームは鵜呑みにした。
「そうか、そういうことなら、いくらでも俺に任せてください。」
先生には、色々お世話んなってるからな。パロームは立ち上がり、シャビィの肩を軽く叩いた。
「これだけガタイがよけりゃ、何でも出来らぁ。なんなら、ウチの頭に直接引き合わせてやってもいいぜ。」
シャビィも立ち上がり、パロームに頭を下げた。リシュンの作ってくれたこの機を、小さな拘りで捨てるわけにはいかない。
「かたじけない。出来れば明日からでも、港の仕事を回してくださいますよう。」
シャビィがリシュンに目配せすると、リシュンは黙って頷いた。
「よしよし、話はつけといてやるから、心配すんな。」
パロームの笑い方には、狡さはあっても嘘がない。
「ええ、よろしくお願いします。」
ふらつく足元を力で押さえつけ、シャビィはなけなしの笑顔でパロームの手を取った。
「私からも、お礼を言わせてください。パロームさん。」
リシュンが深々と頭を下げ、話はあっけなくまとまってしまった。パロームは、何も知らないまま。
「お待たせしました。焼きそばと、サテの定食です。」
カマニが運んできた皿からは、薄暗い湯気が静かに立ち上っていた、リシュンの焼きそばは勿論、シャビィのサテも、ケチャップマニスで茶色く染まっている。
「俺はもう済ませてますんで、どうぞ、気兼ねなく。」
パロームに進められるまま、二人は遅めの昼食にありついた。真っ先に広がるのはソースの酸味と甘みだが、どの具材も程よい歯ごたえに加えて、ソースに負けない味を湛えている。店主の火加減には、一分の隙も見当たらない。
シャビィが空きっ腹に料理を詰め込む傍らで、リシュンはパロームの世間話を聞かされた。何でも、頭目の一人娘の婿取りで、少々揉めているらしい。
「そこんとこ、また今度先生のお知恵を拝借できないもんかと。」
持ちつ持たれつというわけだ。リシュンは箸を置いて、パロームに微笑みかけた。
「願ってもないお話です。多少の狂言くらいなら、喜んでお付き合いしますよ。」
娘か頭を、上手く説き伏せろといったところだろう。この手の仕事を善行よろしく爽やかに引き受けてしまうあたりが、リシュンの流石である。
「助かります。」
力みの抜けた胸をなでおろし、パロームは額を拭った。店には竈の熱がこもっているが、暑さだけではこれだけの汗は出るまい。リシュンは再び焼きそばを食べ進め、シャビィがおかわりを平らげるのを待ってから、パローム達に別れを告げた。
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