ふたり回し

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水蛇の塔(一八六四年五月八日)

発掘調査に進展。

発見された骸骨の正体とは?


 五日目。アランとトーマはコンポンチアムで買出し。私は朝食の際残った学生に疑念を打ち明け、彼等も同様の見解を抱いてゐた事を知る。二度目の横穴穿孔が決定し我々は斧の代はりに鶴嘴を携え現場に向かつた。寺院の倒壊を防ぐ為にも穿孔は最小限で無くてはならぬ。件の修復跡より三米、其れが我々の定めた上限で在つた。

 村民達によるガジマル伐採作業が継続される中、私は学生のみを招集し修復跡に移動、穿孔作業を開始した。鶴嘴交代で石材を砕く事三十分、奇しくもミシエルの手に依り横穴が本殿内部に到達、開口部を拡大した處中心へ向かふ通路を発見した。

 調査の結果は、実に驚嘆に値する。通路は八室の石室に繋がり、内六室の部屋に石棺が安置されてゐる。石棺の状態は気候に反し非常に良好、盗掘の形跡は無く副葬品は手付かずのまゝ埋葬当時の状態で残されてゐた。豪奢な副葬品の他白骨化した遺骸も金玉の装身具を身に着けてゐる事から高位の人物で在つた事が窺える。出土品の鑑別は未だ完了せぬものヽ、蛇を象つた細工が施されてゐる点が共通してゐる。また孰れも非常に高価な物で在り、星青玉をあしらつた冠等も見受けられた。

 長老の語つたやうな蛇神信仰との関連性は認められるが、此れ等が生贄の遺骸で在ると断言するのは些か早計と云ふ物で在る。孰れの遺骸も至極丁重に埋葬されて居り、また其の数も少なく寧ろ此の寺院が彼等の霊廟で在るかのやうに思われるのだ。発見時の状態を見るに過去に此の玄室を村の人間が利用してゐたとも考え難く、伝承通り生贄の風習が存在したとすれば何処か別の箇所因り彼らの遺骸が出土する筈で在る。今回発見された遺骸の正体を解明する為にも、生贄の埋葬場所を突き止めねばならぬ。

 處が、此処に至つて新たな障碍が生じた。本日の作業が終了した際、村祭りの準備が始まる為暫く発掘には付き合えぬと、長老の息から伝言が在つたのだ。我々は一時伐採作業を中断し、明日より数日は出土品の測量、記録と露出した本殿の調査に充てる事に決定した。