ふたり回し

小説投稿サイトとは別に連絡や報告、画像の管理などを行います

つべこべ言わずに作れや! その2

Cタケの周りは意外と賑やかだったりする。


 駅前から少し離れたところに、俺の行きつけの店がある。

 黒い格子のかかった窓に、漆を塗った犬矢来。

 7階ほどあるマンションに寄生した町屋モドキは、大家が趣味で作ってしまった万年赤字のカードショップだ。

「みすまる」の名前が躍る分厚い樫の看板は静かな夕日を受けて輝き、いつも通りに俺たちを迎えてくれる。

 ただし、今日はいつも通りではない。

 身の程知らずなDQN共のことは、まあ、見逃してやるとして、パラガスたちにちょいとした朗報があるのだ。

「やあ。マッシュ君、いらっしゃい」

 人の良い笑顔を浮かべる坊主頭のマスターに向かい、俺は小さく頭を下げた。

「こんちわ」

 店の奥では、パラガスたちがフリーで戦っている。

 俺はテーブルに近づき、パラガスたちに声をかけた。

「よう、パラガス、相変わらず男ばかりでむさ苦しいことだねえ」

 パラガスは顔を上げ、実にリクエスト通りの質問をしてくれた。

 

「遅かったね、マッシュ。その顔だと、何かいいことでもあったの?」

 

 優しさだけが取り柄のような実に冴えない男だが、コイツはいろんな面で本当に期待を裏切らない。

「大したことじゃないけどな。実は今度、知り合いの女の子が来ることになったんだ」

 俺は可能な限りさりげなく答えたが、ユキトたちが話を聞きつけ、一斉にヤジを飛ばし始めた。

 所詮は女の子と遊ぶなんて格好悪いとか思っちゃっている小学生男子の戯言だ。

 いやぁ、実に微笑ましい限りと聞き流していたところ、聞き捨てならない一言があった。

「タケ兄のことだから、どうせまたネカマにひっかかったんだろ?」

 アキノリ、てめえ。

 これだから反抗期は嫌なんだ。

「違うし、ちゃんとしたJKだし。関西学院のお嬢様だし。ブログにタルトとかシュシュの写真とかうpしてたし!」

 俺がまくしたてると、テーブルの周りには錆びついた倦怠感が広がった。

 アキノリどころか、小学生たちまで目に憐れみの色を浮かべている。

「ま、まあ、まだ男と決まったわけでもないんだし、そうがっかりすることもないよ……それより、そのブログって、この間リンク張ってたところ? なんか、すごいマッシュのファンなんだって?」

 パラガスは話を強引に先取りしたが、声ばかりか視線まで上ずっている。

 俺をフォローしたつもりになっているらしいが、まあいい。

 その思い上がりも実物を見れば改めざるを得ないんだからな。

 

「まあな。トリシャさんつって、春先から時々コメント入れてくれてた人なんだけど、彼女、他の奴とは違ってさぁ。精神論とかデッキじゃなくて、こう、ちゃんとしたコラムが好きなんだよね」

 トリシャさんは、俺のコラムを十全に理解できる数少ない読者の一人だ。

 俺が戦術関係のコラムを書くと、割と名前の知れているパラガスでさえ表面的な話しか振れないのに、トリシャさんはむしろ自分から話を広げて来る。

 トリシャさんのブログ『夙川日記』もレベルが高く、先日上がっていたコラム『スペースの密度勾配』には思わずこちらからトラックバックをかけてしまったくらいだ。

「やっぱ、分かる人には分かるんだよね。俺ほどのセンスの持ち主ともなれば? 美少女が心惹かれてしまうのも無理はないっていうか……」

 真っ直ぐに切りそろえられた前髪をかきあげ、俺はニヒルな笑顔でキメたが、皆はあけすけに笑い出した。

 大方嫉妬の余り、受け入れることが出来なかったのだろう。

 JKが! 

 俺に!

 夢中だという!

 ゆるぎない!


 事実を!


「それよりタケ兄、今回してるデッキなんだけどさ。繭ロゼが止まらなくて……」

 ユキトは俺を見上げ、しれっとデッキの相談を持ち掛けた。

 フィールド上には土の中~軽量イコンが並び、トラッシュに卵が見える。

 

「土金のガードコンだろ? 土だけでも結構動かせるから、エンボディでコストを誤魔化すんじゃなくてさ。タッチ火にして、鐘とか目眩まし使えよ」

 繭ロゼのような高速召喚狙いのデッキは、張り合うより殴った方が早い。

 俺にとっては定番なのだが、パラガスは面食らったらしい。

「殴るの? コントロールだよ?」 

 これこれ。

 デッキを分類でしか理解できない症候群。

「早期段階の場アド強いんだから活かすんだって。水木ベースのデッキとは全然違うんだし……とりあえず、そっちで組みなおさねえ?」

 ユキトも初めは抵抗を見せたが、コイツも一応は俺をアテにしている。

 デッキをテーブルの上に並べて、楽しい構築の時間が始まった。