ふたり回し

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何もでけんかった! その2

再起戦に向け、動きだす二人。

なんだか熱くなって来た!

 炊き置きの白飯にカレーをよそい、後は番茶と漬物だけ。

 サラダも何もないが、取りあえず腹は膨れるだろう。

 Kはしっかり食事を採っていなかったと見え、野良犬もかくやという勢いでがっついた。

「とまあ気合が入ったところなんだが、K、お前ぶっちゃけ、この間の勝負、少しでも勝ち目がないと思ったか?」

 実際のところ、あれは淫売のマグレ勝ちに近い。

 カードが出てきたのは相当のラッキードローだ。

 全く同じ展開でも、Kがコメットから殴らせていれば、攻撃は淫売に届いていただろう。

 Kは手を止め、番茶でカレーを流し込んだ。

「勝ち目って……」

 あの負けが、やはり尾を引いているらしい。

 膨れ面で口ごもったものの、Kはやがて思い当たったようだ。

「いくらでも勝ててたやん。あんなん落とすなんて……」

 突き立てられたスプーンが、小さく震えた。

 そこは後悔するよりも、勝てると思ってもらえないものだろうか。

 粗暴な割に、面倒くさい奴だ。

「そう。勝てるんだよ。お前でも」

 それに。

 俺は人差し指をかかげ、天才らしく不敵に笑って見せた。

「あのデッキ、今すごいことになってるぞ」

 水と火の入れ替えによるパワーの底上げ。

 最大コストの引き上げによる爆発的な攻撃力アップ。

 コントロールに対しても、メグとクローナの打撃がよく刺さる。

 俺の説明を受けて、Kはわずかばかり持ち直した。

「何や何や、それ早く言わんかい!」

 食器洗いは、後回しだ。

 俺たちは3階の部屋に直行し、出来立てのデッキを広げた。

「メグとクローナ? お、マーシュもおる……」

 赤単のパーツが多い分、Kもすぐに慣れるだろう。

 他のカードも、前のバージョンの水木フォロアで使っている。

 机に並んだカードの中でKの目を引いたのは、やはりあのイコンだった。

「パワー10! デカッ! ガチで出すん? このイコン」

 疑いながらも、段違いのハードパンチャーにはしゃぐK。

「大会用だぞ。ガチに決まってるだろ。断じてネタではない!」

 速攻の第二波として攻撃に参加する中量級のイコン。

 リソースには厳しいものがあるが、俺の読みではギリギリ到達可能だ。

「おお、ガチけ! アニスと火一枚? こら命がけやな」

 全く、どこまでも殴るのが好きな奴だ。

 俺は目を閉じて軽く笑った。

 いいだろう、思う存分打撃を与えろ。

 それがこのデッキのコンセプトだ。

「基本はメグで殴ってフォロアでアニス。そこから罪の天秤とか、ティアラにつないでいく感じだ……流石に全部狙うと、途中で手札が切れるだろうな」

 相槌を打ちながら、しかし、Kは俺に尋ねた。

 

「ミサはともかくとして、クローナはどこで使うん? 出さんくても回るみたいやけど」

 意外なことに、コイツにも展開パターン中心の思考が身についているらしい。

 デッキが準速攻だという理由だけで、納得するかと思っていた。

「保険だな。ティアラが失敗した時とか、最後の一押しとか。コントロールが相手なら、元手の軽いクローナはありがたいぞ」

 俺はデッキをまとめ、Kに手渡した。

 

「何はともあれ、スパーリングだ。まずは火金から」

 回すことで、初めて気づくこともある。

 対火金、対水木、対土単あたりは絶対に押さえておかなければならない。

 早速テーブルに移動し、俺たちは実験を始めた。

「カードを2枚スタンバイ、『姫系リボン』をカーナだ!」

 火金の最速パターンだ。

 リボンの返し、絵筆から2体のイコンが飛び出す。

「カードを2枚スタンバイ!」

 伏せカードが2枚、アニスから天秤の筋だろうか。

 ビートダウン同士の勝負は、ハイペースで場が埋まってゆく。

「俺のキャストフェイズ、『虹の絵筆』の効果で『姫系リボン』、『底力のマーシュ』をカーナ!」

 これで1体はイコンを残せる。

 俺は攻撃に身構えたが、Kはそのままターンを切り上げた。

 Kの手札はラスト2枚。

 メグを残したところで、フォロアのカンナまでは止められない。

「カードを1枚スタンバイ! 『姫系リボン』で左の手札をクラックだ!」

 当たったカードはミステル。

 助かった。

 アニメイトできるイコンがいないうちに処理できた。

「フォロア1発動、『うさみみアリス』をペイして『弓使いのカンナ』をカーナ!」

 天秤が決まらないと、どうも守りが覚束ないな。

 条件の軽い目くらましのほうが良かっただろうか。

 俺は溜息を吐き、ゲームを終わらせることにした。

「『底力のマーシュ』のアタック、ガードは?」

 Kの返事は、しかし、投了でもガードでもなかった。

 やられた。

 Kめ、糸切歯を見せて笑ってやがる。

「カウンター0、『黒い羽』! 自分で入れたカードやろ。忘れたらアカンで」

 Kのメグを残して、あっという間に場は空っぽだ。

 カンナを使ったのが災いし、残りの手札は目眩しとアリスだけ。 

 この状況で攻撃されると、次のターンにも身動きが取れない。

「ウチのターン、ドロー。『りんごほっぺのメグ』で手札をクラック! 『肉球アニス』のフォロア!」

 当たったのは目眩ましだが、フォロアの発動はカウンターの後。

 使ったところでアニスにはかからない。

「ここまでだ……結構効くな、『黒い羽』」

 攻撃を見送ったのは、羽の後からアニスを出すためか。

 その直前の釣り込みといい、ブランクを心配するだけ損だった。

「カウンターまでの筋は、妹にやられた手か……少しは賢くなったじゃねーか」

 一体何にやられたのか、自分なりに考え続けていたのだろう。

 あの負けも、こうしてみると無価値ではなかったのだ。

「まあな」

 Kは口をへの字に曲げ、鼻を鳴らした。

 幸先は悪くない。

 この調子で、6日後に向けて仕上げよう。

「わざと手札を減らすテクニックだが、今と逆の使い方もある」

 逆やって?

 真面目に聞き返されて、俺は逆に面食らってしまった。

「あ、ああ。ワザとらしくガードをあけて、攻撃を思いとどまらせるんだ」

 自分より重いデッキに対して有効な戦法だ。

 俺が付け加えると、Kはさらに質問を重ねてきた。

「逆に、カウンター持ってへんフリゆーんもあるんか? 手札抱えて、わざと攻めへんとか」 

 これなら、今までの方が楽だったかもしれないな。

 吐きかけた溜息を、俺はもう一度飲み込んだ。

 楽なことになど、何の価値もない。

 勝つために手を尽くすと、さっき決めたばかりではないか。

「除去スペルのブラフもあるぞ。イコンを出すのを見送らせる奴」

 答えてから、俺はカレンダーを振り返った。

 5月8日土曜日、青い数字の上についた丸。

 carnaガールズトーナメントinポートアイランド

 リターンマッチに懸けるコイツのやる気を、どうにかしてこのイベントにぶつけることはできないものだろうか。

 俺の明晰判明な頭脳が正答を導きだすのに、大した時間はかからなかった。

「なあ、K。再戦の申し入れなんだが……ここは正々堂々、8日の大会で決着をつけないか?