ふたり回し

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贈与

もっと楽に書こう……

 

 カルラが賢しいのか、それともアレクが甘いのか。いくら考えても答えは出ないまま、昼食の時間になり、夕食の時間になり、最後の検温が行われた直後。
「アレクくぅん、どうよ、ちょっとは元気になったかね?」
 レフがいつになく、静かに入って来た。夕食が終ってから大分立っているし、面会時間が過ぎているのだろう。
「お陰様で……って、そうか。レフが連れてきてくれたんだったな」
 道理で笑顔にやらしさが透けて見える。アレクが礼を口にすると、レフはアレクの肩を叩き満足げに頷いた。
「そうかそうか、お土産が効いたか~愛は偉大だねぇ」
 さぞ平穏で月並みな絵が浮かんだに違いない。レフの想像を想像しつつ、アレクは苦笑した。
「で、どうだった?」
 顔をぐっと近づけ、小声で尋ねるレフ。機械油の臭いを嗅ぐのは、やけに久し振りだ。
「正直自分でもまだ信じられなくてさ……あそこまでしてもらって良かったのかな」
 アレクはわざと勿体ぶって、うっとりと天井を見上げた。
「勿体ぶるなって~。この後皆に報告する時間がなくなっちゃうじゃないのよ」
 整備班は、これから仕事だろうか。アレクもついこの間まで同じ生活をしていたというのに、いつの間にか診療所のサイクルに馴染んでしまっている。
「俺がこうして座ってるだろ? ベッドに椅子を寄せて、彼女がそこから、身を乗り出して……」
 レフの目には、カルラの姿が見えているに違いない。椅子のあった場所を深々と見据え、無駄口に蓋をしたままアレクの話に耳を傾けている。
「ふんふん、それで?」
 促されて、アレクは目を閉じ記憶を辿り寄せてゆく。
「病院食のコーンスープをさ、こう……一匙ずつすくって、俺の口に入れてくれるんだよ」
 薄目を開けて確かめると、幸いレフは目を円くしていた。
「それだけ?」
 それだけ。あべこべなオウム返しに、分かりやすく肩を落とすレフ。
「オイオイ、アレクくぅん。欲がなさすぎるのも問題だぜぇ?」
 次回こそは男児の本懐を遂げよとお達しを受けたものの、あの調子では正直望み薄だろう。アレクが零すと、レフは理由を尋ねた。
「ちょっと、喧嘩みたいなことになったんだ。皆の悪口を言われて、俺……」
 秘密の冷たい鋲が背骨に触れ、曖昧さの中に無駄口を解いた。
「適当に話合わせときゃいいのに……いいヨン、そなたに知恵を授けよう」
 さっきとは打って変わって、レフは訝しがるそぶりも見せない。
「いいかねアレクくぅん、そもそも女の子を説得しようとすること自体が間違いなのだよ」
 椅子の上で胡坐を組み、レフはダイブツのポーズをとった。曰く、人事を尽くして天に任せよ。人事とは、何でもいいからとにかく機嫌を直してもらうことである。
「そして大事なのは誠意よぉ、つまり……」
 間延びした語尾の続きは、思わせぶりなウィンクだ。ため息交じりにアレクが催促すると、レフは得意げに鼻を鳴らした。
「アレクくぅん、しっかりしておくれよ。プレゼントに決まってるじゃぁないの」