ふたり回し

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誓約

ちょっと別の話のアイデアを練ってた。

ドローン警察と、SFをファンタジーといい張る話……

 

 勿体ぶった割に、レフが薦める妙手の正体は古臭い力押しだった。
「いや、でも、流石に物で釣るのは……それに、彼女はそんなに馬鹿じゃないよ」 
 休む間もなく物思いにふけっていたせいで、最早溜息さえ出てこない。
「だーかーらー、そこを上手ーい具合にだねぇ、特に何も狙ってない感じで、自然に渡すんじゃないの」
 丸まった背中を叩き、尚も浅はかな調略を吹き込むレフ。曰く、期待を持たせるにはアクセサリーに勝るものはない。バザールが来ている今こそ、掘り出し物を手に入れるチャンスだ。
「分かった分かった。外出できるかどうか、明日先生に聞いてみるよ」
 余りのしつこさに根負けして、アレクは渋々請け負った。これで土産話にも、アレクが彼女を怒らせて貢ぐ羽目になった旨が追加されることだろう。思わぬ収穫にレフは満面の笑みを浮かべ、軽やかな足取りで病室を後にした。
 分かったと言ってしまったものの、アレクがなすべきは女の子のご機嫌取りではない。カルラの判断はいつも的確で、飛びぬけた名案に幾度となく助けられてきた。言いつけを破っただけで保安局に捕まり、実験台にされそうになったのを忘れて、アレクは真っ向からカルラを咎めてしまったのだ。一体何と言えばいいのか、そもそも、カルラは中庭に来てくれるのか。じっくり考える間もなく、病室には消灯時間が訪れた。
 習慣とは、逆らい難いものだ。寝る前の悩みを引きずり回廊をうろついていたのに、足が遠のくどころか、自ずと中庭に向かってしまう。階段に座り込んで時間を潰した後、アレクは観念して木戸を開けた。
「アレクさん」
 ずっとここで待っていたのだろうか。ベンチから起き上がり、乱れた髪を直すカルラ。アレクは足を止め、渋々謝った。
「昼間は済みませんでした」
 そこから先は、口の中でぶつかり合って簡単には出てこない。
「そんな……私こそ、よく考えずに言ってしまいました。それに――」
 アレクさんの指摘は、何も間違ったことではありません。カルラは首を振った。
「私達が行っていることも、やはり諜報活動なのです」
 当て付けを真面目に取られてはお手上げだ。進退の窮まったところに、今度は手厳しい小言が振って来た。 
「ですがその手のことに関しては、向うの方が遥かに上手です。アレクさん、考えてもみて下さい。ユレシュ達がアレクさんに監視を付けないと思いますか?」
 いいかねアレクくぅん、そもそも女の子を説得しようとすること自体が間違いなのだよ。レフの正しさを、アレクは漸く思い知った。
「それは……そんな筈、ないですよねぇ」
 一旦こうなってしまうと、残る手は相槌くらいのものだ。
「要は味方を疑うのではなく、敵を甘く見るなということです」
 アレクは今更身を隠しようもないが、あっさり攫われないように用心することくらいはできる。忠告に従うことをアレクが約束すると、カルラはベンチの片側を空けた。課題その一は解決として、二つ目は何だったろうか。ベンチの端に半分尻を乗せ、考えること数分。半端に思い出した入れ知恵は、明後日の方向に転がった。
「そうだ。カルラ様、バザールは覗いてみました?」
 ニコライから逃げ隠れしていたのに、のんびり買い物をしていく筈がない。そもそもバザールに行く用事があるのは、アレクの方ではないか。途方に暮れているのを知ってか知らずか、カルラは珍しく暴投を器用に拾った。
「いえ。珍しい物が並ぶと話だけは聞いていますが、私は買い物自体あまりしませんし……」
 元気になったら、リハビリがてら案内してくださいますか。たどたどしい口実に風前の灯が大きく奮い立ち、四肢に炯々と力を送り込んだ。アレクが飛び跳ねる度、眩しい音を放つツナギの金具。
「今ので元気出ました! 雪山登山できるくらい」
 夢を見ているだけだと、アレクはよく弁えていた。目が覚めたら、こんなに軽快に動き回ることはできないだろう。それが証拠に、あのカルラが屈託なく笑っている。
「アレクさん、それは現金というのですよ」