ふたり回し

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移植ー3

いい加減引っ越しの場面に行きたい。

 「なんていうか、本当に好き勝手してたんだな……神をも恐れぬとか、よく自分達で言ってるくせに」
 ついた端から、新しい溜息が出て来る。項垂れたアレクを見て、カルラは現代史をそこそこに話を進めた。
「私が驚いたのは、それでもキリールがダリアの処罰を急がないということです」
 ダリアの供述を信じているのか、それともユレシュや城に対する警戒の表れなのか。カルラは口元に手をあて、演繹に沈んでいる。
「まだ仲間だった頃に、ユレシュ本人から話を聞いてたってのはないかな」
 それならダリアの話を聞いた瞬間、何が起こったのか理解できたはずだ。アレクの憶測は、如何にも結論ありきだった。
「断定するには、他の原因が多すぎますね」
 単にダリアの犯行動機を見出せずにいるのかもしれない。或いはダリア自身の裏切りはありえないと確信しているのかもしれない。オハの一件で、ユレシュ若しくはその仲間が別の場所で城の研究を続行していると判断した可能性もある。
「今回のアジート襲撃も、単なる報復ではなく虱潰しにユレシュを狩り出した結果かもしれません」
 敵だったユレシュの仲間と誤解されているのだから、酷いとばっちりもあったものだ。アレクは鼻を鳴らし、口を尖らせた。
敵の敵は味方って言うけど、流石に心外だな」
 イポリートとニコライ結託するなどありえない。キリールが気付く前に研究所を襲ったのは、他ならぬニコライ達ではないか。零す前に、アレクは不平を慌てて飲み込んだ。
「そう、イポリートがわざと情報を流した理由が、まだ全く分かっていません」
 カルラはアレクの肩を掴み、ぐっと顔を近づけた。これでは身じろぎしただけでも、顔がぶつかってしまう。
「イポリートのせいで、ソビエト内の対立構造は混沌としています。自分達の疑いを晴らすためにも、キリールはテロリストの掃討を急ぐでしょう」
 それに。息ではなく、声がアレクの頬を打った。
「アレクさんが気を付けるべきは、保安局だけとは限らないのですよ」
 そこまで念押しされて、アレクは漸く忠告の意味に気付いた。
「ごめん、俺はやっぱり、皆と一緒に行くよ」
 保安局が一たび腰を上げたなら、ニコライ達には戦い続けることも、逃げ続けることも叶わないだろう。それでもアレクには、抜け駆けを選ぶことが出来ない。目を閉じ、じっくり息を整えてから、カルラは硬い面持で頷いた。
「分かりました。アレクさんの覚悟が決まっているなら、もう私からは何も言いません」
 同じくらいきっぱりと切り捨てることが出来れば、カルラにこんな傷を負わせずにせずに済んだのだろうか。アレクには償うどころか、ごまかすことくらいしか出来ない。
「まだ諦めるには早いんじゃないか? いくら国安でも、根絶やしにするとなるとかえって上手くいかないだろうし」
 現にニコライ達は、今日まで党に盾突き続けてきたのだ。口に出してしまうと、気休めは一層弱々しく響く。カルラは何も言わず、立ち上がって木陰から飛び出した。
「それより私は、こちらでユレシュの居場所を掴む可能性に期待したいですね」
 カルラには似合わない、石壁に響くほどの大声だ。眩しさにもかかわらず、アレクには目を細めることが出来なかった。白衣の背中が日差しを受けて、力強く輝いている。
「イポリートの真意については、少なくとも一人は手がかりが残されています」
 振り向いたカルラに、アレクはうっとりとうわ言を返した。
「ユーリか。あいつは今、どうなってるんだ?」