ふたり回し

小説投稿サイトとは別に連絡や報告、画像の管理などを行います

隠蔽

苗字がなくなってる設定なのになぜか悪役は苗字なんだよね。

どうすっかな……

 「やはり――」
 カルラはゆっくりと立ち上がり、青い丸椅子に腰かけた。
「イポリートの行動は、イブレフスキの意に反するものだった……そうでなければ、キリールの裏をかいてアレクさんを逃がす理由がありません」
 党の指導部と無関係である以上、現政権を打倒したところでユレシュ達の計画を止めることはできない。消え失せた上がりを前に、カルラの顔つきは鋭さを増してゆく。
「カル――じゃなくて、カルラ」
 伸ばしかけた手を下し、アレクはシーツを握った。
「予想が外れたのは、カルラにしても、ニコライにしても、最悪の状況を前提にしてたからだろ?」
 それが外れたのだから、状況は好転しているのだ。アレクの楽観論に、カルラは目を丸くした。
「まあ……状況だけを見るなら、ユレシュは党の支援を受けられず、むしろ狙われているわけですからね」
 その上オハの研究所は閉鎖、イポリートも既に死んでいる。他の研究所にも捜査の手が及び、ユレシュが計画を続行することは不可能だ。
「俺達が何もしなくても、党が勝手に阻止してくれるかもしれない」
 余計な一言を付け加えると、大げさな鼻息が返って来た。
「全く、そんな暢気な人がありますか」
 ほんのり膨らんだ、温かそうなカルラの頬。カルラの言う通り、アレクは締まりのない顔をしているに違いない。
「今分かっているのは、彼らがユレシュの扱いで対立していたということだけです。オハの実験にしても、イブレフスキが指示していた可能性はあるのですよ」
 無論ユレシュが主流派を出し抜き、研究を完成させてしまう可能性も。お小言を躱すため、アレクはわざとらしく訊ねた。
「当のユレシュは、一体どこにいるんだろう――ダリアに撃たれたのが、影武者だったとしてだけど」
 ユレシュは8年前に死んでいるのか、未だどこかに潜伏しているのか。食い違いを解くための理屈さえ、アレク達の手元にはない。それを知っていたイポリートも、今はこの世の者でなくなってしまっている。隙間ない壁を前にカルラが目を付けたのは、空手で立ち尽くす自分達の方だった。
「おかしいのは、手掛かりを得られなかったこと自体です。私達の知る限り、イポリートはユレシュとコンタクトを取るどころか、彼の居場所について考えたことすらありません」
 私達が覗いている間、一度もです。アレク達が知っているのは、無論イポリートの活動の極一部に過ぎない。だがそのごく一部の中にも、キリールとの会話があり、ユーリからの報告があり、ユレシュについての顧慮があった。その中で、ユレシュとのやりとりや身柄についての情報だけが抜け落ちている。
「まるで――」
 彼が故人であるかのように。