ふたり回し

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反映

やっぱブログっていいな……静かで

 

 それから二人は中庭に引き返し、螺旋階段の途中で別れた。カルラはキリールの動向を、押さえておかなくてはならないのだという。病み上がりを理由に追い返され、アレクは一足先に目を覚ました。
「カルラ……さん?」
 見ればカルラは、タオルもかけずに眠っている。アレクは慌てて毛布を被せようとしたが、カルラが目覚める方がほんの少し早かった。
「すいません、今ので起こしちゃいましたね」
 まだ偵察の途中でした? アレクが謝ると、カルラは首を横に振った。自分の扉に戻った後も、体が目覚めるまでは睡眠が続くのだという。
「キリール達の対応は、大方掴めています」
 イポリートはソビエト転覆のため秘密裏に洗脳技術の研究を進めていた。党内にはまだ非人道的な実験に加担し、暴動を企てる者がいる。それがイブレフスキの綴った、正式な筋書きだ。イポリートの企てに加担していたとして、オハ以外でも研究者や教諭などが次々に検挙されているという。
「問題は、拘束された者の殆どが我々の仲間だということです」
 研究を推進していたのは、体制派のイポリートだ。こんなあからさまなすり替えが、まかり通るはずがない。
「何が転覆だ。そんな都合のいい――」
 アレクが鼻息を荒くする一方で、カルラはため息交じりに付け加えた。
「証拠はないに等しいですが、議会では味方が追及される側に回ってしまっています」
 反発の原因がユレシュの施策だということは、今や何の弁明にもならない。イブレフスキに切り捨てられたとなれば、ユレシュが反対派と結託する筋書きも十分に考えられるそうだ。
「それこそ今の体制が出来る前から、散々繰り返されてきたことですからね」
 事もなげに切り捨てたきり、カルラは黙って黄色いカーテンを見つめた。点滴用のフックが揺らす、仄暗い空調の寝息。微かな影の痕跡が、脂ぎったナイロンの上を漂っている。
「……情報操作ではないのかもしれません」
 反体制派の命運でも、イブレフスキ達の圧政でもない。カルラの目は、物言わぬ死体に向けられていた。
「以前言いましたね。アレクさんの奪取は、イポリートの思惑によるものだったと」
 オハ国立擁護センターもまた、味方の目を盗んで運営されていたのだとすれば。イポリートは自切されたのではなく、本当に裏切り者だったのだとすれば。イブレフスキの懐に、ユレシュはいないということになる。そこまで聞かされて、アレクは初めて手を打った。
「そうそう、ニコライとも似たような話をしたんです」
 イポリートとダリアの口論、そしてユレシュの消息。話を進めるうちに、カルラの読みは残像の間を彷徨い出した。