ふたり回し

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移植ー4

文字数は増えるのに話は進まない罠。

 


 ユーリはイポリートを売った後、何か見返りを得たのか。それとも使い捨てられ、お縄にかかってしまったのか。アレクが尋ねると、カルラは首を横に振った。
「あの後は保安局を優先して、ユーリのその後は掴めていないのです」
 大学病院の同僚や『守る会』の仲間が次々と収監されており、仲間を逃がす為に保安局の情報が必要なのだという。かくいうカルラ自身も、旅行に出かけた時点で遁走したと見なされているかもしれない。
「今思えば、ユーリから目を離したのは大きなミスでした。イポリートを生贄に定めた人物を、彼は知っているかもしれないのですから」
 顎に手をあて、カルラはじっと自分の影を見つめている。
「何にせよ、他にはこれといったアテがないな。前みたいに、虱潰しに扉を開けるようなこともできないし」
 アレクが参加できるようになるのも、暫く先のことになるだろう。途中までカルラに付き添われ、アレクは自分の扉へと戻ったのだった。

 翌日アレクは幾分調子が良くなり、カルラと別れてハンガーに向かった。出口にも近く、ニコライも立ち寄る場所だ。それに何より、戻って来たボルゾイと油を抜いていたボルゾイ、全てが片付いているとはとても思えない。出口が封鎖されて混乱が生じているのだろうか。突き当りの広場に人だかりが出来ていたため裏口からハンガーに降りてゆくと、果たして既に作業が始まっていた。レフ達がボルゾイを解体し、部品に応じてケースに収めている。
「病院に戻らなくていいのかい?」
 班長に尋ねられ、アレクは肩をすくめた。
「診療所に戻ったら、満員で追い返されました」
 アレクが倒れないよう、班長は地味な仕事を回した。十分おきに薬液から金具を引き上げ、タオルで挟む係である。
「お前も災難だったな。病み上がりなのに、アレ、やらされたんだって?」
 先輩はバットに入った薬液を、精製水で薄めている。
「戻って来た後がヤバかったんだ。目が覚めてからも、暫く自分がダリアだと思いこんでたくらい」
 濃い石鹸の香りに気づき、アレクは物干しハンガーから袖付きの手袋を外した。グリスを溶かすため、苛性ソーダを使っているようだ。
「あの後ハンガーはどうなってたんだ?」
 アレクが聞いてみたところ、作戦中も残りのボルゾイを片端から出撃可能な状態に戻していたという。帰還したボルゾイは簡単な作動チェックの後、傷んだ部位を解体中の三号車から移植して一応走れる状態に戻してある。
「今分別してるのは、その残りってワケだ」
 金具をザルにあけていると、レフが新しいパーツをバットに乗せて持って来た。
「アレクくぅん、昨日は大活躍だったそーじゃない?」
 ニコライ経由で、既に話が広まり始めているらしい。
「どうなんだろう? 一晩寝て起きたら、何が起こったのか確信持てなくなって来てさ」
 あの隊長が、自分の陰謀を画策してたのかもしれない。ぼんやりとうそぶくと、レフはにやりと笑った。
「謙遜はいかんねぇ。俺はその内、こういうこともあるかと思ってたぜぇ」
 なんたってたって、俺にはオーラを見抜く力、あるから。実のところ、レフの情報源はどこにあるのだろう。アレクはまじまじと見つめてから、一つレフを試してみた。
「バザールに来てた人たちはどうなるんだろう? 入り口のランプがあれじゃ、帰れないだろ」
 シャッターの向うに気配はあるが、あれは単なる片付けなのだろうか。復旧作業が行われているなら、数日以内にカルラも車で帰ることができるかもしれない。
「アレク君はソースが古いねぇ。入り口なら、とっくの昔に解放されてるよん」 
 何でもトラックに地引網を引かせ、死体を引きずり降ろしたのだという。車が出られるなら、カルラにとっては朗報か。自分の目で見る勇気は湧いてこず、アレクはレフのソースを信じることにした。