あと一話で勝負を付けられそう……
リベリオンということは、クローナかアニスを先読みさせたのか。
だが問題は、その手段だ。
2ゲーム目のようなかまし合いになると、これはもう読みようがなくなってしまう。
「Kがスタンバイするオリ、アニスを出すと嘯いたのでオジャル」
天秤なら卵を温存すればよいし、アニスなら待ってリベリオンを使えばよい。
なまじ読み合いに勝ててしまうがゆえに、可哀相女には表か裏しか選べなかったわけだ。
「だがスペルの最も単純な破壊法は、イコンによる攻撃。Kにしてはよく考えましたね」
可哀相女のプランAは、完全に瓦解した。
涼しそうな顔をしていても、内心は相当動揺しているに違いない。
《再び憐選手にターンが戻ったが、『金の卵』を失った影響は大きい……果たして立て直すことが出来るのか?》
立て直さなくていい、このまま奴は詰みだ。
《実際の差は意外と大きくありませんね。蛍選手も手札には攻撃出来ていないし、お互いイコンも1-1ですから、まだまだ巻き返しはあり得ますよ》
実況より間抜けな解説とは恐れ入る。
可哀相女のデッキにおいて、卵はドローソース代わりの重要なリソースだ。
奴の展開は今の攻防で数ターン遅れたと見て間違いない。
次のターン、カードを2枚伏せ、可哀相女はシータを繰り出した。
「何てこと……このままじゃお姉ちゃんが攻撃する前に試合が終わっちゃう」
焦ったな、可哀相女め。
シータと同時にスタンバイしたのは、恐らく『甘い香り』。
2枚が並んでいれば完全防備に近いが、シータでアニメイトすれば香りが無防備になる。
カウンターで出さなければ元の木阿弥だ。
「そら、お前が先行やからな……ウチのターン、ドロー。カードを1枚スタンバイ!」
Kがメグをカーナし、戦線は数的に互角だ。
パワーで勝っている分、こちらの方が若干動きやすいか。
俺の計算は、しかし、予想外のカードによって破られた。
「『碧眼のシータ』でアニメイトして、スペル『恋のカクテル』をキャスト!」
香りなら火金にも入るが、カクテルだと?
突然現れた新しいカードに、ギャラリーもざわついている。
「ヤハリ! 金単色にしたのは、金づくしを使うためでオジャッタか!」
場のカードが全て金なら、カクテルの下げ幅は香りの2倍。
パワー6のクローナさえ、足腰が立たなくなってしまう。
「カクテル? 大会で使うカードかよ!」
アキノリにとっても、カクテルは予想外の1枚だったらしい。
パワーダウンのコンセプトデッキにしても、香りやアザレアを並べることが殆ど。
カウンターがない上に発動条件の厳しいカクテルなど、使いたがるのはトリシャさんくらいのものと思っていた。
「ええい、驚いてる場合か。ひょっとしなくても、このターンはこれで終了だぞ!」
除去と攻撃、二つの突破口を同時に封鎖されてしまった。
ミサが出てこなければ、ターンどころか試合終了だ。
降って湧いた断崖絶壁に、Kも絶句している。
「もういいでしょ、お姉ちゃん。私のターン――ううん、試合ももう止めにしよう」
可哀相女め、もう勝ったつもりか。
Kは可哀相女を睨みつけ、ターンエンドの一言だけを吐き捨てた。
「不味いな……『火矢』か何かねえのか、タケ兄」
敗北主義者め、情けない声を出すな。
あらゆる状況を想定するのがカリスマデッキビルダー。マッシュだ。
可哀相女に聞こえないよう、俺は声を落として答えた。
「こんなこともあろうかと……ミサを2枚挿ししてある」
対策カードは腐りやすく、積むにしてもそれが限界だ。
1ドローで出て来る確率は10%に満たない。
誰かに肘をつつかれ、振り向くとそこには蝋人形!
「今、手札にあるカノ……」
蝋人形もかくやという灰色の顔で、トリシャさんが尋ねた。
ご丁寧にも、俺の口から余命宣告を言わせたいらしい。
「それならあんな顔しませんよ」
南無三! とだけ呟き、トリシャさんは体を震わせた。
元気なときのトリシャさんも何をしでかすか分からないが、元気がないときのトリシャさんはホラーの域に達している。
危うくこちらの心臓まで止まるところだった。
「ロッテのアニメイトで、『幸運のアンヘル』をカーナ!」
Kが動けないのをいい事に、可哀相女は更にシータでアンヘルを繰り出した。
次の攻撃で手札が0になれば、ミサを引いたところで出しようがないぞ。
「まさか……こんな形で終わってしまうなんて」
終わりだと?
馬鹿な。
俺達の大会が、これで終わり?
そんなことがあってたまるものか。
この一週間、俺達は何の為に練習を積み重ねて来たのだ。
何より俺の新作が、あんな、遊び半分のDQNに?
ジャッジ、イカサマだ。今そいつが手札と場のカードを入れ替えたぞ!
俺が声を上げるより早く、Kが高らかに宣言した。
「揃ったで。勝つためのカードが、全部」