ふたり回し

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貴重な青春は素通りしていくの! その6

あと一話で勝負を付けられそう……

 リベリオンということは、クローナかアニスを先読みさせたのか。
 だが問題は、その手段だ。
 2ゲーム目のようなかまし合いになると、これはもう読みようがなくなってしまう。

「Kがスタンバイするオリ、アニスを出すと嘯いたのでオジャル」

 天秤なら卵を温存すればよいし、アニスなら待ってリベリオンを使えばよい。
 なまじ読み合いに勝ててしまうがゆえに、可哀相女には表か裏しか選べなかったわけだ。

「だがスペルの最も単純な破壊法は、イコンによる攻撃。Kにしてはよく考えましたね」

 可哀相女のプランAは、完全に瓦解した。
 涼しそうな顔をしていても、内心は相当動揺しているに違いない。

《再び憐選手にターンが戻ったが、『金の卵』を失った影響は大きい……果たして立て直すことが出来るのか?》

 立て直さなくていい、このまま奴は詰みだ。

《実際の差は意外と大きくありませんね。蛍選手も手札には攻撃出来ていないし、お互いイコンも1-1ですから、まだまだ巻き返しはあり得ますよ》

 実況より間抜けな解説とは恐れ入る。
 可哀相女のデッキにおいて、卵はドローソース代わりの重要なリソースだ。
 奴の展開は今の攻防で数ターン遅れたと見て間違いない。
 次のターン、カードを2枚伏せ、可哀相女はシータを繰り出した。

「何てこと……このままじゃお姉ちゃんが攻撃する前に試合が終わっちゃう」

 焦ったな、可哀相女め。
 シータと同時にスタンバイしたのは、恐らく『甘い香り』。
 2枚が並んでいれば完全防備に近いが、シータでアニメイトすれば香りが無防備になる。
 カウンターで出さなければ元の木阿弥だ。

「そら、お前が先行やからな……ウチのターン、ドロー。カードを1枚スタンバイ!」 

 Kがメグをカーナし、戦線は数的に互角だ。
 パワーで勝っている分、こちらの方が若干動きやすいか。
 俺の計算は、しかし、予想外のカードによって破られた。
 
「『碧眼のシータ』でアニメイトして、スペル『恋のカクテル』をキャスト!」

 香りなら火金にも入るが、カクテルだと?
 突然現れた新しいカードに、ギャラリーもざわついている。

「ヤハリ! 金単色にしたのは、金づくしを使うためでオジャッタか!」

 場のカードが全て金なら、カクテルの下げ幅は香りの2倍。
 パワー6のクローナさえ、足腰が立たなくなってしまう。

「カクテル? 大会で使うカードかよ!」

 アキノリにとっても、カクテルは予想外の1枚だったらしい。
 パワーダウンのコンセプトデッキにしても、香りやアザレアを並べることが殆ど。
 カウンターがない上に発動条件の厳しいカクテルなど、使いたがるのはトリシャさんくらいのものと思っていた。

「ええい、驚いてる場合か。ひょっとしなくても、このターンはこれで終了だぞ!」

 除去と攻撃、二つの突破口を同時に封鎖されてしまった。
 ミサが出てこなければ、ターンどころか試合終了だ。
 降って湧いた断崖絶壁に、Kも絶句している。

「もういいでしょ、お姉ちゃん。私のターン――ううん、試合ももう止めにしよう」

 可哀相女め、もう勝ったつもりか。
 Kは可哀相女を睨みつけ、ターンエンドの一言だけを吐き捨てた。

「不味いな……『火矢』か何かねえのか、タケ兄」

 敗北主義者め、情けない声を出すな。
 あらゆる状況を想定するのがカリスマデッキビルダー。マッシュだ。
 可哀相女に聞こえないよう、俺は声を落として答えた。
 
「こんなこともあろうかと……ミサを2枚挿ししてある」

 対策カードは腐りやすく、積むにしてもそれが限界だ。
 1ドローで出て来る確率は10%に満たない。
 誰かに肘をつつかれ、振り向くとそこには蝋人形!

「今、手札にあるカノ……」

 蝋人形もかくやという灰色の顔で、トリシャさんが尋ねた。
 ご丁寧にも、俺の口から余命宣告を言わせたいらしい。

「それならあんな顔しませんよ」

 南無三! とだけ呟き、トリシャさんは体を震わせた。
 元気なときのトリシャさんも何をしでかすか分からないが、元気がないときのトリシャさんはホラーの域に達している。
 危うくこちらの心臓まで止まるところだった。 
 
「ロッテのアニメイトで、『幸運のアンヘル』をカーナ!」

 Kが動けないのをいい事に、可哀相女は更にシータでアンヘルを繰り出した。
 次の攻撃で手札が0になれば、ミサを引いたところで出しようがないぞ。

「まさか……こんな形で終わってしまうなんて」

 終わりだと?
 馬鹿な。
 俺達の大会が、これで終わり?
 そんなことがあってたまるものか。
 この一週間、俺達は何の為に練習を積み重ねて来たのだ。
 何より俺の新作が、あんな、遊び半分のDQNに? 
 ジャッジ、イカサマだ。今そいつが手札と場のカードを入れ替えたぞ!
 俺が声を上げるより早く、Kが高らかに宣言した。

「揃ったで。勝つためのカードが、全部」