ふたり回し

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捕食ー5

漸く合戦が終わったー

 

 勝った矢先に夜逃げとは、一体どういう理屈なのか。アレクが尋ねようとしたその時、管制室全体が点滅した。こうも久し振りだと、蛍光灯の白い光は目に刺さる。
「電力の復旧を確認。非常電源から通常の電源に切り替わります」
 明るくなったのは、部屋だけではない。肩の荷が下り、オペレーター達の間に談笑が広がっている。目の前の戦いが終わり、しかし、アレクは新たな気がかりに足首を掴まれた。
「俺はそろそろ戻るよ……治る前に無理をしちゃったな」
 動くと眉間の辺りがぐらつくが、歩き回るくらいならもう大丈夫だろう。出口を尋ねると、エカチェリーナは左の扉を指した。
「構わないけど、もうじき病院からも移動してもらうことになると思うわ」
 固く険しい声に、アレクは立ちすくんだ。中心にあるべきものが欠けているということは、この明るさは錯覚だ。
「ああ、それ。さっき言った、夜逃げっていうの、何かと思ってさ」
 口に出した端から、ことごとく言葉が失速してゆく。静かな鴉色の瞳に、どれほど暗く、険しい現実が映っているのか。どんなに目を凝らしても輪郭さえ覗えない。
「今まで私達が生き延びて来れたのは、取るに足らない山賊だったからよ」
 アレクを見据えてから、エカチェリーナは低い声で説いた。党の幹部にさえ密輸品を求める者がいて、レジスタンスは半ば公然と活動できていた。もし保安局が本腰を入れたなら、軍の出動を待つまでもなくアジートは滅されていただろう。
「それがオハの一件で変わってしまった」
 ニコライ達は派手に暴れ過ぎた。下手に指導部を追いこんだ結果が、この直接攻撃だという。
「そんな、でも、皆はそれを返り討ちに――」
 言い返そうとする気配もなく、エカチェリーナは冷ややかに待っている。正しさの臭いに、アレクは立ちすくんだ。勝ち目がない理由を探してみれば、殆ど自明のことだ。あの程度の中隊など、ソビエトにとっては爪の先に過ぎない。
「……コルレル先生にも、伝えておくよ」
 アレクが項垂れると、エカチェリーナは軽く肩を叩いた。
「誰か介助に付けた方がいいかしら?」
 迷わずアレクは頭を振った。有難いことに、まだ戦闘が終わったばかりでオペレーター達は被害状況の確認にかかりきりだ。
「いや、いい。皆、忙しいだろうし」
 アレクが逃げた後、ターミナルで何が起こったのか。一刻も早くカルラの無事を確かめなければならない。