ふたり回し

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移植ー9

ちょいと別のお話をば。

 無論のこと、隅々まで調べ尽くした訳ではない。今まで探索した場所を、カルラは指で差して教えた。
「この付近は全く調べられていませんし、探すべき場所が分かったのはとても大きな発見ですよ」
 二人の立つ踊り場にも、早速二つの木戸が並んでいる。皺だらけの板が黒い鉄板で乱暴に繋がれ、隙間から中も覗けそうだ。この扉の中身は、一体誰なのだろうか。その前に、バルコニーの扉も調べなければならない。今さっき素通りしてきた扉の中に、ユレシュのものがあったかもしれないのだ。カルラが壁沿いの階段を下り始めたことに気づき、アレクは遠慮がちに呼び止めた。
「駄目です! 十分に回復するまでは――」
 お小言には言い訳する隙もなく、分かった分かったと宥めるばかり。漸く収まったかと思いきや、カルラはさらに一言を付け加えた。
「それに、まずは帰り道を探さなくては」
 あっ。何とも拍子の抜けた合いの手だ。
「まさか、来た道を戻るつもりだったんですか?」
 これからあの場所を調べるにも、まともに繋がった道筋が必要だ。うっかり飛躍を見せたら、また余計な心配をかけてしまう。呆れ顔に胸をなで下ろし、アレクは顔を綻ばせた。
「忘れてたよ。でも、それなら寧ろ知ってる所なのは好都合じゃないか」
 本当に調子の良い人ですね。気色ばんでも、機嫌の良さは隠せない。無理をせず様子見で終わらせるつもりが、思わぬ収穫にありつけたのだ。首尾は上々といっても差し支えないだろう。
「あそこに垂直な通路が一本通っているでしょう? あの通路から螺旋階段に出られます」
 広間は薄暗く、欄干の燭台で輪郭が分かるだけだが、水平な足場が多くそれ以外は目につき易い。向かいの壁際、階段の奥に細い通路を認めると、考えるよりも先に目が経路を辿っている。
「端が反り返って天井に繋がってるな。ここからだったら、一旦降りて……」
 天井に繋がる他の道はないか。恐らくは壁伝いの通路か階段、或いは広間からの出口だ。当然のことながら、先に道を見つけたのはカルラだった。
「こっちです。奥の壁から階段が伸びているでしょう? あの先の通路は一度通ったことがあります」
 カルラについて階段を下り、反りかえった床を上ると、今度は広間が縦に仕切られる格好になった。多くの通路は床に突き刺さり、歩いて行ける道が少ない中、目当ての階段は扉の並んだベランダへと俯伏せに繋がっている。アレク達はベランダを回り込み、裏から階段を上った。裏面には灯りがなく、朧げな光の中に退屈な影が伸びているだけだ。
「私もこの階段は、裏側しか上ったことがないんです」
 知っているのが反対側だけでも、通路が捻じれている場所は同じだ。カルラは上手く明るい側に出て、そこから先はとんとん拍子で天井に辿りついた。
「それでは、わたしはここで」
 螺旋階段までアレクを送ると、カルラは広間に戻っていった。カルラの扉は、あちら側にあるのだろうか。気持ちを引かれながらも、アレクは階段に腰掛け待ち続けた。イポリートの時と比べれば、今回は回復が早い。短い間なら扉に入っても大丈夫だろう。暫くしてアレクは立ち上がり、カルラがいないのを確かめつつ来た道を遡った。