ふたり回し

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拒絶ー7

烏最近、旧辞と中国史のすり合わせが出来ないか考えてる。

神功皇后から逆算するしかないんだけど、岩戸隠れあたりからは史実が混じってるような気がするんだよね……

 安請け合いをしたものの、アグラーヤの見張りは中々解けない。朝食が終わるや否やコルレルの奥さんと入れ替わりに滑り込み、ベッドの端に腰を下ろしてシーツを押さえ込んでしまうのだ。放してもらえないなら、いっそのこと脱走の片棒を担がせることは出来ないものか。簡単な挨拶の後、アレクはそれとなく手札をちらつかせた。
「別に身体は何ともないし、今すぐ現場に入れるんだけどなあ」
 付き添いがいるなら、外出許可が下りるかもしれない。逃げ道を素通りして、温い重みがベッドの上を静かに滑り寄った。細かく渦巻く金髪が、漏らした息に小さく揺れる。
「こっち来てから、シャワー浴びてないじゃん? てか、あいつらが攻めてきてから、ずっと」
 身体拭いてあげよっか? 甘い囁きに混じる生温い桃の香り。肩に肩が押し当てられ、肌の冷たさが躊躇いを呑み込んでゆく。
「わ、悪いよ。自分でも出来ることだし」
 天井と窓枠が揺らぎ、もがいても身体が思うように進まない。ベッドから転がり落ち窓枠を頼りに立ち上がると、見慣れた髪型が目に入った。レフだ。病院の裏手で、誰かと話し込んでいる。アレクに声をかけられて、アグラーヤは乱れたフレアスカートを伸ばした。
「ふぅん。よくもまあ飽きもせず……てか、他に女の子とかいんの?」
 整備班には五十がらみのおばさんが一人いるくらいだが、部隊には二、三人女の子がいたはずだ。お相手が木で見えずにアグラーヤは業を煮やし、アレクとしてもこの機を逃す手はない。
「急がないと、俺達が着く前に行っちゃうぞ」
 つま先で靴を拾い、アレクは駆け出した。
「待って! ちょっと!」
 ヒールの硬い足音が階段を追い駆けて来る。アグラーヤは案の定追いついても引き留めることはなく、二人はそのまま役場の裏に辿りついた。レフはこんな昼間から、一体誰を口説いているのだろう。頭だけを角から出して林の奥を覗いてみて、アレクは目を円くした。ウェーブのかかった長い金髪は、間違いなくエカチェリーナのものだ。
「ハ? あんなトコで何してんの? あのババア」
 原因は分からないが、アグラーヤはエカチェリーナと見れば何かと噛みつきたがる。アレクが引き戻さなければ、今すぐにでも掴みかかってしまうだろう。
「でも、何だろう? あの二人で隠すような話って、そんなにないよな?」
 整備班の仕事以外にもレフが御用聞きを引き受けているのは知っているが、それも内密の用事というわけではない。話の中身を聞き取ろうにも、ここから出来るのは木陰に目を凝らすことだけだ。アレクが気を揉む傍ら、アグラーヤは意地悪く唇を曲げている。
「これはひょっとするとひょっとするかもよ? ハン、ジジイめ、ザマァミロってんだ」
 返事を迷っているうちに、話が終わってしまったらしい。レフ俄かに振り向きかけたのを見て、二人は大慌てで角に隠れた。声を出さずに、足音を殺して病院の表まで。途中カルラのリクエストを思い出し正面玄関の上を見上げると、剥げ落ちた名前の痕が残っている。『イルクーツク市上イルクート支所』かえってバイカル湖に近づいてしまったことを、喜ぶべきか、それとも危ぶむべきか。厄介な手土産を持て余しながら、アレク達は元の病室に引き返した。