ふたり回し

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拒絶ー10

もうちょっと色んなメンバーを出した方がいいんだろうか……

 その日は待てども待てども昼食が運ばれず、回診が先に始まった。倒れてから他人の扉を開けていないこと、発作が一度もないことを確かめるだけで、ここではそれ以上のことは出来ない。ところがアレクは検査と称して病室から連れ出され、着いた先は案の定、何の機械もなくパイプ椅子と折り畳みのテーブル、後は窓が一つきりの慎ましい小部屋である。窓側の席を勧め、コルレルは顔の前で両手を組んだ。
「あれからアグラーヤが入り浸っとるみたいだが……あの子はもういいのか?」
 声を押し殺しているのは盗み聞きを用心してのことだとして、冷ややかで鋭い目つきはどう受け止めるべきなのだろう。アレクは咎められているのか、それとも別の険しい理由があるのか。日差しが背後から容赦なく突きつけられ じっと座っていることさえ難しい。
「アグラーヤはレフと一緒で、いつもの仲間ってだけですよ。お見舞いに来てくれた子は、他所に避難してそれきりですし」
 問いの狙いが読めない時は、パスして手番を返すに限る。それもきわどい秘密があるなら、なおのこと。
「付き合いの長さで言えば、ぽっと出なのはあの子の方か」
 無関心な装いはまんまとコルレルを素通りさせ、後は別の道に引っ張り込めば完了だ。
「先生こそ、お孫さん達は……」
 言いかけて、アレクは不用意な言葉を飲み込んだ。あの騒ぎの中、思いがけず色々とアジートに残して来てしまったのではないか。浮足立っているのを見て取り、コルレルは大げさに溜息をついた。
「馬鹿もん、ちゃんと逃げたに決まっとるだろ」
 だが、当面は会いに行くことも、この村に呼ぶことも出来ない。それどころか娘夫婦がどこにいるのか、息災かどうかさえ分からないのだ。今は貝になって耐え忍ぶ時だと、この老医師はしかと心得ている。どこかの小さな隙間から村の所在が漏れたが最後、保安局は滅びを携えその日のうちに飛んでくるだろう。監視の目を掻い潜って遊びに行ってやろうなどと愚かな野心を燃やしているのはアグラーヤとレフくらいのものだ。アレクは項垂れ溜息をついたものの、告げ口だけは零れないよう唇を噛みしめた。
「俺達を見張ってるのは、ニコライ達じゃない」
 山奥の村で、数日見かけなかっただけで、何を勘違いしていたのか。部屋の外まで聞こえるように声を絞り出したところで、元よりアグラーヤに届く言葉などない。デスクに手をついて立ち上がり、コルレルはアレクを見下ろした。
「未来を信じることだ。今に流されたくなければな」
 白衣の背中が部屋を後にしても、荒削りの言葉は思惑の四隅に陣取っている。外で追い払われたのか、暫く待ってもアグラーヤは迎えに来ず、アレクは重い腰を上げしおらしくも階段を上った。