ふたり回し

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拒絶ー15

シムシティはこれくらいにしておこう……

 あくる朝、アレクはレフ達に探りを入れるため、脱走を明日にしないかと持ち掛けた。侵入者があったなら、村の警備が厳しくなっているだろう。あてが外れてレフは二つ返事だったが、恐れ知らずのアグラーヤが珍しく水を差した。
「夜逃げからこっち、ジジイが半端なくヒスってるジャン? 遊びに出たのがバレたら、ガチで繋がれんじゃね?」
 アグラーヤはパイプ椅子の背に肘をつき、苦々しげに壁の向こうを睨んだ。レフが見張りのスケージュールを調べてきてくれた時点で、アグラーヤの我儘は役割を終えている。火傷を負う前に立ち消えるなら、火をつけた当人としても願ったり叶ったりではないか。
「いいのかヨン? せっかく段取りまで付けたのに、もったいなくなくない?」
 なあ、アレクくぅん。レフは隣に腰を下し、病人の肩に重たい肘を乗せた。ベッドのスプリングが軋む音が、トロッコの呻き声に重なる。二人に巻き込まれた筈のレフが、なぜ最後まで脱走計画に拘っているのだろう。ここまで一人で骨を折ったのが無駄になるというだけで危ない橋を渡るには、お馴染みのもじゃもじゃ頭は軽々しくこそあれ、あまりにそつなく冷めている。ぎこちなく笑いながら、アレクは調子よく逃げを打った。
「実は俺も無理があるかなとは思ってたけど、言い出しっぺが降りたらラーニャに悪いと思ってさ」
 アグラーヤが及び腰なら、街に出る意味もない。締りのない笑顔に、レフは肩をすくめてウィンクした。諫めるならともかく、唆すための屁理屈など常人は持ち合わせていないし、もとより多数決が通らない事は専属の道化師が一番よく心得ている。
「あーあ、遊びに行けると思ったこっちがバカだったし」
 アレクが謝ってもしかめ面に雪解けの兆しはなく、アグラーヤは椅片を傾け片足でバランスを取った。
「そこは、ほら、村の中でもできることがあるんじゃないかな」
 ダーツやビリヤードなら、手近な廃材や木材だけで再現できるかもしれない。折しも今整備班は家具の修理に取り掛かっているらしく、アレクはコルレルと相談して現場への復帰を試みることにした。
 元より作業が支障が出るわけでもなく、ここ数日容体は落ち着いている。さしたる反対も受けずに退院が決まり、翌朝から何事もなく作業に追われる日々が始まった。一輪車からドアノブまで、直す物はいくらでもある。気を紛らわす用事には事欠かない日々だというのに、晴れるどころか雲は厚みを増すばかりだ。
 城の中庭に、いつまで経ってもカルラが現れなかったのである。