人民解放軍海軍および空軍の拡張により、日本が有事に際し本格的な通商破壊を受けるリスクは上昇している。
資源の多くを海外に依存する日本は、航路の安全が確保できない状況下で輸送手段を確保すべく、第二次世界大戦以来途絶えていた輸送潜水艦の開発に着手した。
当初は完全な潜水能力が要綱に盛り込まれてたものの、コストが上振れし配備数が不足する事態が危惧され、苦肉の策として提案されたのが煙突部のみを水上に残す半潜水艇である。
計画の公開は同艦の有効性そのものを脅かすとして、政府は構想の段階から開発を水面下で推し進め、三井物産の輸送船を装い川崎重工に計8隻を建造させた。
一番艦「ゑびす」の名は海の向こうから福を運ぶ船との意味があり、たいげい型とのつながりを連想させる。
ゑびす型は全長160m、潜水時排水量2万tと一般的な補給艦と攻撃型潜水艦の中間的な規模に収まった。
積み下ろしの間は潜水不能なため、上部構造は典型的な傾斜船型をとっている。
輸送艦の体を取りつつも海上での受け渡しや補給に必要な貨油やドライカーゴのハイライン輸送機器を搭載している。
プラットフォームは重油、ドライカーゴともに各2基、後に車両用のランプとヘリコプター用のハッチも追加された。
安全性の低い海域ではマスト以外を潜水させるため、プラットフォームとランプは格納式、格納庫のハッチも水密を守るため、内側から密着させる構造をとっている。
機関部と煙突を後部に集中させている関係上ヘリポートは前方に配置せざるを得ず、航行中の発着はできない。
完全な潜水を断念した代わりにバッテリーと電気推進装置が不要となり、駆動系はシャフトを短縮してコンパクトにまとめられた。
軽量化のためIHI製のLM2500を主機として搭載し、出力2,800shpで艦尾のスクリューを駆動、潜水時にも最大25ノットで航行する。
FTIRへの対策として、排気ダクトには海水を利用した冷却器が取り付けられた。
可変ピッチスクリューとダクト内のベーンを併用し、対象艦への正確なアプローチを実現している。
空いたスペースを活用して貨油の積載量は3,000t、車両を含むドライカーゴ2,000tを収容し、上部格納庫にはUH-60一機を収容可能。
バラストは半自動で調整され、積載状況に応じて船体のバランスを維持する。
装備の多くはマストに集中し、ESSM用の4連装VLSに加え、通信用の統合レーダー、捜索、誘導用のレーダーが搭載された。
艦首にはQQQ7を搭載しているが、魚雷の運用能力は有していない。
ゑびす型は浸水後も長らく秘匿されていたが、第四次オイルショックの折イランからの原油密輸入に従事。
アメリカが海上で給油している衛星画像を公表し、日米安保を揺るがす一大事に発展。
艦艇の譲渡により事態はようやく沈静化、日本政府は手痛い代償を支払う結果となった。
接収されたゑびす型は強力な空・海軍をもつアメリカにとって必要性の薄い装備であったが、台湾情勢の悪化に伴い皮肉にも中国による封鎖の突破という本来の役割を果たす運びとなる。
洋上における米軍からの後方支援は反抗作戦の力強い支えとなり、まさに台湾海軍の生命線であった。