重クレーンヘリコプターの構想は、1970年代まで遡る。
WTO陣営のMi-26に対抗する目的でXCH-62が試作されたものの、動力伝達系の開発が滞り計画は頓挫、超大型輸送ヘリの開発そのものが途絶えてしまった。
その後海兵隊の展開能力の不足、あるいは展開可能な部隊の戦力不足が露呈し、ヘリボーンによる主力戦車の展開実現への模索が始まる。
開発計画の要綱には、主力戦車の吊り上げが可能な積載量を持つこと、ヘリコプター揚陸艦で運用できる機体規模に収めること、夜間運用能力や5時間以上の連続飛行能力などが挙げられていた。
計画段階では軽量な主力戦車の開発も視野に入れられていたが試作機のペイロードが60tを上回ったため不要とされ、その際試作機に最小限の調整が加えられた物が、CH-86 TarheⅡである。
50t以上の吊り上げ能力という過酷な要求を達成するため、本機には強力なエンジンと大型メインローターが与えられ、さらに貨物室を持たない純粋なクレーンヘリとして設計されている。
概算された要求出力9,000Kwには米空軍で運用されているターボファンの中では最大のT56さえ出力不足とされ、GEnxのコアを元にターボシャフト版のT86が設計された。
膨大な燃費を賄うべく燃料槽も大型化し、最大360分の連続飛行時間を確保した。
XCH-62の反省からギアボックスの簡略化、シャフトの短縮が念頭に置かれ、二基のエンジンはローターの回転軸と平行に縦置きされている。
動力部に合わせて上下方向に醜く肥大化した機体は、発表当時カエルアンコウと揶揄された。
前面の巨大なインテーク下側から取り入れられた外気はクランク状のマニホールドを経由して底部に導かれ、エンジンを経由した後、インテーク上側から取り入れた外気と混合され後方に排出される。
インテークにはレーダーブロッカーが装備され、加えてマニホールドの途中に異物除去システムが設けられた。
各6翅のABCローターは直径32m、折りたたみも可能なブレードには剛性の高い複合素材が用いられている。
同軸反転式であることからテイルブームも短く、駐機に必要なスペースは20m×2.3mと在来機種のCH-53よりも小さい。
本機が持つもう一つの大きな特徴は、強靭な4本の電動ウィンチである。
取り付け作業が簡略化された他、積み下ろし時地表と距離を取ることでウォッシュダウンの影響を低減し、谷間など狭所へのヘリボーンが容易になった。
横風による横転を防ぐため、機体の繫留にもこのウィンチが用いられる。
また機体下面後方には地表確認用の赤外線カメラが装備され、機首下面の赤外線ジャマーを照明代わりにも利用可能。
CH-86は甲板上に複数駐機することができ、機甲部隊のヘリボーンが実現するとして当初は海兵隊へ194機もの導入が計画されている。
導入後まもなく強襲揚陸艦アメリカ所属のCH-86が30両のM-1を車両貨物輸送艦ワトキンズから然別演習場へピストン輸送するというデモンストレーションが行われた。
本機の編隊がM-1を輸送するVTRは両陣営に大きな衝撃を与え、空輸に対応した装輪戦車などの削減さえ取りざたされた。
ところが、本機には配備後もなかなか活躍の機会が巡って来ず、ランニングコストの高さから甲板上の障害物と化していた例も珍しくはない。
CH-86が遭遇した実戦は当初の想定に反し、カルフォルニアにおける消火活動である。
頑丈、軽量な機体と先代CH-54の4倍以上のペイロードは火災現場においても存分に発揮された。
近年純粋な輸送機としての性能に注目が集まり、座礁したイルカを空輸した一件が話題を呼んでいる。