敵味方が森林地帯や茂みに身を隠して互いに偵察を行う際、利用できる視覚的な情報は限られている。
膠着時の砲撃戦を有利に進めるため、イスラエル陸軍は偵察部隊向けに歩兵用の観測装置の配備を決定した。
陸軍とIMIが着目したのは、音や熱源よりも検知しやすい無線用の電波である。
軽量、小型で指向性の強い携行式電波探知機を目標に開発が開始され、パラボラアンテナやホーンアンテナ、マルチテーパースロットアンテナ、八木アンテナまで一通りのモデルが試作された。
開発チームは探知距離に優れたパラボラアンテナ型を陸軍に提出し試験運用が行われたが、探知機の使用中に接敵した際、即座に小銃に持ち替えることは難しい。
現場からはグリップを廃止し、小銃にマウントしてほしいという要望が相次ぎ、直径が大きくなりがちなパラボラアンテナ以外の選択が必要となった。
そこで直径を抑えるために選択されたのが、八木ループアンテナを装備したモデルP.322である。
開発チームはp.322にさらなる改修を加え、探知機一式をまとめて脱着できるよう探知機のディスプレイとアンテナ、照準器を一体化した。
こうして制作されたモデルp.329はパレスチナでの実践テストを経て陸軍での正式採用が決定し、Yarden(ヨルダン)HFとして商標登録を受けた。
YardenHFは偵察部隊や工作部隊中心に配備が進められ、アメリカ、インド、エジプトなどへのセールスも活発に行われている。
前線では偽装した敵部隊、中でもドローンで探知しづらい電子妨害ユニットの捜索に力を発揮し、友軍に対する伏撃の5割近くを阻止した。
現在はダットサイトをベースした1Aに対し、暗視スコープをベースにした2Aの開発が進められている。