ふたり回し

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ルノー VCIL

ロシアの進出によって西アフリカにおけるフランスの影響力は低下の一途を辿り、軍需産業の収益も多大な損失を被っている。

フランスは失地回復を図り、紛争地向けの安価な戦闘車両の開発に乗り出した。

イラク戦争後に発生した紛争の研究が進むにつれ判明したのは、前線における装甲車両の損耗率の高さと対ミサイル防護のための高度な電子化、高コスト化である。

直接射撃から間接射撃へ、受動防御から能動防御へと海戦の後を追う形で陸戦は複雑化している。

そこでむしろ群狼戦術を採用し、被弾によるリスクを損耗の阻止ではなく分散により解決するというアイデアが浮上した。

陸軍は小銃と地雷に耐える装甲と歩兵戦闘車に有効な火器を備える最小限の戦闘車両、VCIL(軽歩兵戦闘車)の名目でトライアルを実施。

二社が応募に応じ、オーヴェルランが市販のSUVを改修した保守的なMRAPを参加させたのに対し、ルノーは新造した細身のATVを送り出した。

ルノーの試作車は小型軽量で4輪ながら不整地に強く、水上走行用のスクリューを備えており渡河作戦に参加できる。

ベース車がないためコストの上振れが危惧されたものの、軽量な分駆動系に特別な耐久性は求められず、部品の四割は市販車から流用されている。

陸軍はルノーのATVをVCILとして正式採用し、先行して200両が海兵隊に、100両が空挺旅団に導入された。

 

VCILの最大の特徴は、軽量化のため左右に絞り込まれた車体である。

ホイールハウスの代わりにポリカーボネート製の泥はね防止プレートをアッパーアームに固定され、またプレートに整流板を追加することで水上走行時にホイールやボディから生じる抵抗を軽減した。

先端にフィンを装備する姿はフォーミュラマシンに例えられるが、エンジンは81hpどまりのディーゼル三気筒でオンロードでも時速100km以上を出すことはできない。

ダブルウィッシュボーンのスプリングにトーションバーを用いたことも抗力の削減に寄与しており、直径1mのスクリューも相まって時速20kmでの水上走行を実現している。

乗員もタンデム配置とされ、運転手はATV同様座席に跨って搭乗する形式が取られた。

後席にはRWS用のジョイスティックやフリップダウン式のモニターが装備され、天井のハッチは装備されていない。

 

ボディは浮航能力を持たせるためアルクラッドのモノコックで構成され、ボロンカーバイドのプレートに覆われている。

警戒任務に支障が出ないよう窓は大きくとられ、60㎜厚の積層アクリルが用いられた。

装甲材だけでは十分な防弾性を持たせられず、前面、底面に対し大きく傾斜をつけることで対物ライフル、STANAGレベル4相当の防弾性を確保している。

小型軽量化の結果車重は1.8tに収まり、演習では投下による展開も行われた。

上面のプロテクターRWSを主兵装とし、一本で歩兵と軽装甲車両にバランスよく対応可能なGMW40m自動擲弾発射機をマウントすることが多い。

 

量産体制が確立されるに従いVCILのコストは50万ドル弱にまでカットされ、それ以上に輸送・燃料コストの低さが海外展開で大きなメリットをもたらした。

車両ではなく歩兵の一種として複数のVCILが展開し、戦車や歩兵戦闘車の身代わりとなる。

群狼戦術は人的被害を劇的に減少させたにも関わらず、VCILの乗員に被害が集中するために隊員達からは愛の棺桶と蔑まれた。

フランス陸軍ではVCILによる歩兵の火力支援は減少し後方部隊の警護に用いられるケースが増加した。

一方低強度紛争や武装組織の掃討において本装備の火力と装甲は大きな優位性として働き、予算不足の軍隊でも手が届く戦闘車両として途上国で導入の動きが相次いでいる。

河川を含め通れる道が多いことも道路網の脆弱な湿地帯にかみ合い、特にブラジルは2,000両もの大量受注を行った。

競合車種の多くが中東に最適化されている現状近代的な熱帯向けの兵器は珍しく、VCILの販売数は早くも5,000両に達しつつある。