ふたり回し

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☶☴(山風蠱)――その52

次回から、決着に向けて話が展開する予定(苦笑

その51より続く


 草むらの中から現れたのは、踊り子が彫り込まれた、玄武岩の柱だった。同じ踊り子の様々なポーズが、ざらついた医師の肌にびっしりと並んでいる。

「今は草に覆われていますが。この下は全て瓦礫の山です。片端から掘り返せば、棺桶の間から金銀財宝の一つや二つは出てくるかもしれませんよ。」

 悪趣味なリシュンの提案を、シャビィはきっぱりと断った。

「もうその手には乗りません。心にもないことを言って人をからかってばかりいると、そのうちツケが回ってきますよ。これを機に、日頃の行いを見直してみてはいかがですか?」

 したり顔で説教されて、リシュンは小さく鼻を鳴らした。

「残念、もう慣れてしまいましたか……いかがです、その顔の方は。そちらにも慣れましたか?」

 リシュンの誂えた前髪をいじり、シャビィは苦笑した。

「慣れてきたとは思いますが、慣れすぎるのも困りものです。修行に差し支えがなければ良いのですが。」

 近くの茂みに、一羽の海鳥が降り立った。小さな巣の中では、雛たちが首を伸ばし、ありったけの声で餌をねだっている。

シャビィさん、世の中を見て回ると行っていましたが……本当に旅に出るつもりなのですか?」

 リシュンの問いに、シャビィは笑って答えた。

「ええ。托鉢しながら、着の身着のままで、とりあえず……バムパを目指してみようと思います。なんといっても、仏教の本場ですから。」

 聞けば聞くほど死出の旅だ。あまりの無謀さに、リシュンは眉を寄せた。

「他の人ならともかく、シャビィさんがバムパとは……今から先が思いやられますね。」

 先の海鳥が二人の前を横切り、最後の漁に飛び立った。あたりが暗くなってきたせいか、空を飛んでいた海鳥の多くが、自分の巣に戻ってきている。

「そういえば、リシュンさんはどうするおつもりですか?この捕物がうまくいったら。」

 髪を掻き上げながらシャビィが聞き返すと、リシュンは曖昧なほほ笑みを浮かべ、それからシャビィに背を向けて何かを呟いた。

「リシュンさん?」

 鳥の声に埋もれた言葉を確かめようと歩み寄り、シャビィはリシュンの手に、あの鍵が握られているのを見た。

「お金を貯めて、私も、旅に出るつもりです。この鍵の正体を確かめ、元の世界に帰るために。」

 風に揺られる青い草原に、亭客の黒い影は深く焼きついて離れない。シャビィは立ち止まり、うつむいたまま、力なく請け合った。

「見つかりますよ。きっと。」

リシュンは振り向くことなく、風の中に両手を広げ、大きく息を吸い込んだ。

「ええ、あと少しです。あと少しで、私たちの道が開ける。だから……勝ちましょう、必ず。」


その53へ続く


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