それは、風のないある日のこと……
風のない日は、洗濯物を干す大事なチャンスです。
私は、今日の分と一緒に、中で干していた洗濯物お日様にあてようと思っていました。
ところが、ようやくハンガーをかけ終わろうとしたその時、
下からルイエちゃんの叫び声が聞こえてきました。
「野良ギアだ、みんな、いくよ!」
いつもルイエちゃんが号令をかけると、
フィンカちゃんはオムライス号を止め、はしごを駆け上がってきます。
私はフィンカちゃんのタンクトップを下ろして、
洗濯物かごに放り込みました。
「ユニス!ノラは見えたか?」
ハッチから顔を出したフィンカちゃんはあたりを見渡しましたが、
道路のわきには廃ビルが並んでいて、遠くまでは見えません。
私は洗濯物をハンガーから外しながら、答えました。
「さっきからずっと、静かだったけどなぁ。」
フィンカちゃんはデッキに上がって、洗濯物を片付けるのを手伝ってくれました。
ギアが船を襲うのは、珍しいことではありません。
ハンガーも、洗濯バサミもお構いなし。
片っ端からかごに放り込んでいきます。
「こっちに向かってきてる!船から離れて戦おう!」
ルイエちゃんとワノンちゃんが、梯子を登ってきました。
「なかなか大きかったなぁ。先月分はこいつで取り返せるんちゃう?」
ワノンちゃんは左足のコアに手をかざして、ギアを引き出しました。
肌にふつふつと銀色の雫が汗のように吹き出して、
四角いケースの形を作っていきます。
「あのビルに登ってみる!」
ルイエちゃんはビルにワイヤーを打ち込んで、デッキを強く蹴り出しました。
ルイエちゃんはワイヤーを巻戻してビルを登ると、手を振って私たちを呼びました。
「こっちだ、ホテルの陰から仕掛けよう!」
「がってん承知!」
フィンカちゃんもギアを引出し、ルイエちゃんに続きます。
ワノンちゃんはオムライス号から飛び降りようとしましたが、
ふと私を振り返り、拳を握って叫びました。
「ユニス、洗濯バサミは外さんでええ!」