ふたり回し

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ハック&スラッシュに表彰式はいらない

今回初めて花園系の幸せなオフザケを書けた気がする。


「フィンカちゃん! ルイエちゃん!」

 ルイエちゃんはフィンカちゃんを抱え、ステージ裏から出てきました。

 勿論、お姫様抱っこです。

「フィンカ、よー無事で、うち、あんたがひどい、ひどい……」

 鼻水を垂らしながら泣きじゃくるワノンちゃんを、私はそっと抱きしめました。

 散々なミスコンでしたが、エロ同人みたいなことにはならず、みんなこうして無事でいます。

 ルイエちゃんはフィンカちゃんを下すと、ワノンちゃんからずぶ濡れのパラオを受け取り、フィンカちゃんの肩にかけてあげました。

「悪ぃ、なんか心配かけちまったな……仇も取れずじまいか」

 フィンカちゃんはバツが悪そうに笑って、ステージの方を振り返りました。

 あのステージでは今、ズタボロになったニホチマさんが内股で二つ目のトロフィーを受け取っているはずです。

「アホ、仇ならもーとっくにとってくれたやんか。あの肉団子のかっと飛びっぷり――思い出したらなんかおかしゅーなってきたわ」

 私たちは顔を見合わせ、声を上げずににやにやと笑いました。

 フィンカちゃんも、なかなかひどいことをやってくれます。

 

「おーい、ユニス君、探しとったよ!」

 遅れてきたイェリックさんは、ルイエちゃんを見て目を白黒させました。

「ティウルさん……でしたかな? もうさっそくこの子達とお近づきに?」

 ルイエちゃんは束ねた後ろ髪を折り、前髪のピンで挟みなおしました。

 アイロンをあてたせいで先っちょがまだチリチリに波打っていますが、これで大体いつも通りです。

「私です。ええとですね、……あの後皆のことが、ちょっーとだけ心配になりまして……」

 咳払いをして取り澄ましたルイエちゃんを、フィンカちゃんが肘で小突きました。

 

「それだけでワザワザこんなカッコまでするヤツがいるかよ」

 髪を染めてアイロンまで当ててくるなんて、ルイエちゃんはよっぽど心配だったのでしょう。

 私たちがひとしきり笑い終わると、ルイエちゃんは真っ赤な顔をして、ぼそぼそとつぶやきました。

「仕方ないでしょ、キャ、キャラを壊したくなかったんだってば。私が、私がミスコンなんて――」

 そっぽを向いたルイエちゃんを横目に、フィンカちゃんは大きな声でうそぶきました。

「あれー、おっかしーなー、アタシが言ったのは水着のことなのになー」

 きょとんとする私の隣で、ワノンちゃんはゲラゲラ笑いながらお腹を抱えて蹲っています。

 確かにこんな紐みたいな水着を着る必要はなかったと思うのですが、それは何か面白いことなのでしょうか。

 私には分からない何かを言い当てられ、ルイエちゃんは声を張り上げて応戦しました。

「か、確実に予選を通過するためだって! 地味な水着じゃ勝てないし! 大体フィンカの水着の方が大胆じゃない!」

 まくしたてるルイエちゃんからするりと逃げ出し、フィンカちゃんは手を振ってルイエちゃんをからかいました。

 ここまでされてはルイエちゃんも大人しくしてはいられません。

 握った拳を震わせながら、ルイエちゃんはありったけの声で叫びました。

「くぉらー! フィンカーッ!」

 笑いながら逃げるフィンカちゃんを、ルイエちゃんは全速力で追いかけ始めました。

 西日に染まったゴム製の床を、二つの影が仲良く走り回っています。

「良いものだね。気の置けない仲間というのは」

 二人を寂しげに見つめるイェリックさんのおでこは、オレンジ色の光を弾いてきらきらと輝いています。

 イェリックさんのいうことは間違ってはいないのですが、やっぱりどこかが釈然としません。

 あのルイエちゃんがムキになるなんて、今日はつくづく変わったことの起こる日です。

 私はとりあえず二人を追いかけ、呼び止めることに決めました。

「待ってください! プールサイドを走っちゃだめですよ!」

 

 良い子のみなさん、これは私とのお約束ですよ。