ふたり回し

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……ウチが今から、それを教えたる! その6

 

「取りあえず、受付行ってくるわ」

 一応順路が設けられているが、まだ並んでいる者はいない。
 女性限定などと半端に進歩的な姿勢を装った末路がこれである。
 他地域の結果を受けて、兄貴も今ごろ頭を抱えていることだろう。
 K達の受け付けも一瞬で片付いてしまい、三人は5分とせずに戻って来た。

「よし。まだ少し間があるが、会場に向かうか」

 全力で睨みつけられ、俺は思わずたじろいだ。
 真っ当な提案をしただけだというのに、一体何が気に食わないというのか。

「お姉ちゃん、お願いだから目を覚まして!」

 この声、聞き間違えるはずもない。
 オタクを迫害し人類の進化を阻む反動勢力の尖兵。

「出たな! 可哀相女!」

 アキノリめ、なぜ俺が言うまで待てないのだ。
 遅ればせながら振り返ると、果たして可哀相女は白々しい涙を浮かべている。

「お姉ちゃんは、その人に騙されてるんだよ! カードで勝てるようにしてしてやるとか都合のいいことを吹き込まれて、いいように使い捨てられるなんて……お姉ちゃん、なんて可哀想なのかしら!」

 アキノリ達には一瞥もくれず、可哀相女はさりげなくソシャゲ男に抱き付いた。
 やはり奴の狙いは、最初からK一人のようだ。

「ほな試してみい。ウチがこの一週間で、どんだけ強なったんか」

 Kが不敵に笑いかけると、可哀相女はキレキレのツイストをかまし、潤いさらさらヘアーを体に巻き付けた。

「どうして分からないの! 遊びの勝ち負けなんかより、もっと大切なものがいくらでもあるじゃない。このGWだって、もっと違った過ごし方がいくらでもあった筈なのに」

 もっと大切なものとは、お互いをランク付けし合う浅薄な愛や友情のことではあるまいな。
 TCGを侮辱されたというのに、俺は腹を抱えて笑ってしまった。

「貴様らのように低俗な猿に、TCGの深遠さが理解できる筈もなかったな……いいぞ、貴様は一生まがい物のラブ&ピースでも拝んでいろ」

 カードゲーマーにも常識人を気取って友愛だの修養だのを唱える者がいるが、そんな連中は二流三流の愚か者に過ぎない。

「貴様ごときには難しすぎるだろうが、教えてやろう……TCGの神髄はゲームの外ではなく、その深奥にこそある! 勝敗を司る創意、理論、演繹。それら全てが有史以前より人類を導いて来た文明というものの本質であり、未来へと到達させる無尽蔵の推力に他ならない! TCGは、人類が神へと向かう偉大なる計画の縮図なのだ!」

 理解を超えた真実を前に、他人を煽る余裕も失ってしまったのだろう。
 可哀相女は目に見えて狼狽え、ふらふらとたたらを踏んだ。

「え? 何それ? どういうことなの?」

 こうなってしまえば、流石の可哀相女も最早ただの可哀相な女である。
 自分が煽っていたはずのKやアキノリから失笑を買っているのだからな。

「行こう、憐。こんな奴に付き合う必要ないよ」

 旗色の悪さを察し、ソシャゲ男は可哀相女を連れて退散した。

「流石師匠でオジャル! あの奸賊輩に反論の余地すら与えヌトハ!」

 俺の弁舌に感銘を受け、ガッツポーズをとるトリシャさん。
 ところが何故か八汐さんは、そのトリシャさんを怒鳴りつけた。

「関心するところではありません!」