ふたり回し

小説投稿サイトとは別に連絡や報告、画像の管理などを行います

停電

いよいよ戦闘開始?

 「何か食べてみたいものはある?」
 考えなしに訊いてみたものの、アジートにあって街にないものなど、アメリカから渡って来たジャンクフードくらいのものだ。食事に関しては、街の方が圧倒的に安くで美味い物を食べられる。大通りを戻りながらマトモな店を探していると、不意にカルラが袖を引っ張った。
「アレクさん、あれは何の店ですか?」
 恐らくは、槍を掲げた先住民がカルラの目を引いたのだろう。戦士が脇を固めた木造のダイナ―は、いかにもエスニック料理が出てきそうな雰囲気を纏っている。
「ステーキハウスだよ。カンガルーの肉が出て来るんだ」
 同じオーストラリアでも、イギリス人が入植した後のオーストラリアということだ。アレクは肩をすくめてみせたが、カルラはこれを聞いて俄然興味が湧いて来たらしい。
「アレクさん、この店にしましょう。この機会を逃す手はありません」
 二人は店に入ろうとしたが、しかし、表のメニューを確かめることすらできなかった。普段は昼も夜もなくやかましい街の灯りを、俄かに闇が断ち切ったのだ。雑踏がどよめきと入れ替わり、真っ暗な地下道にこだまする。
「停電かな」
 一体どこが故障したのだろうか。足を止め、握った手の柔らかさを頼りに身を寄せ合っていると、やがて足下に緑色の光が灯った。通りの中央に埋め込まれた非常灯が、坂の上まで一列に並んでいる。頼りない灯りの中で互いの顔を見合わせ、苦情をこぼす人々。
「復旧する気配がありませんね」
 取りあえず部屋に戻るべきか、それとも動かず復旧を待つべきか。相談する間もなく、通りに過酷な警報音が流れ込んできた。
『総員戦闘配置、総員戦闘配置。非戦闘員は速やかに居住ブロックに退避せよ』
 ニコライからの勧告で、人混みは俄かに沸騰した。無数の影が薄闇の中を駆け回り、叫び声が幾重にも重なってゆく。
「戦闘? アジートで?」
 敵が来る。ことによれば、もう既に始まっているのかもしれない。
「危ねえぞ! タコ野郎!」
 怒鳴り声に振り向くと、流れに逆らい、背の高い男が坂を上ってきた。男の大きなボストンバッグが人の足にぶつかる度、重い影が翻る。アレクはカルラの手を引いて鞄から逃れたが、とうとう子供が激突し、鞄は弾き飛ばされてしまった。
「ミン!」
 リィファだ。倒れた子供に駆け寄り、怪我の様子を確かめている。
「大丈夫か?」
 リィファ達を庇っているだけで、避難者に突き飛ばされそうだ。アレクに気づいたリィファは子供を抱き起こし、代わりに答えさせた。
「歩けるね、ミン」
 べそをかきながら頷く子供。リィファは弟達を連れ、家族と落ち合うつもりだという。
「アレクも上手く逃げなよ」
 余裕が余りないからかカルラに対しては手を振るにとどめ、リィファ達は坂を下っていった。