相変わらずのセンス……
「髪留めか。カルラが好きな色はどれ?」
花瓶と同じ、縞模様のバレッタだ。いきなりネックレスよりは、あざとくなくていいかもしれない。赤と白、瑠璃と金、紫と黄色。甘ったるいストライプを見ていると、段々棒付きキャンディーに見えてくる。
「そんな、私がお見舞いで来ているのに」
いや、お礼じゃないんだ。これ以上遠慮されないように、アレクは理由を付け足した。
「作戦が上手く行ったのに、お祝いをまだしてなかったと思ってさ」
悪が滅びるその日まで、自分は片時も楽しんではならない。そんなことが書いてあるのは、説教している時のカルラの顔くらいのものだろう。気色ばんだフリも長くは続かず、カルラは自分の太ももを叩きながら笑い出した。
「本当に屁理屈を考えるのが得意な人ですね」
指で涙を拭いながら、いつの間にか反対の手が黄色と緑のバレッタを指している。
「これはどうでしょう?」
シャツの脇を濡らす冷たい汗。アレクは音を立ててトウモロコシのイメージを飲みこみ、カルラのセンスをたたえた。
「とっても……夏っぽいね。自然な感じがするよ。カルラにも、きっとよく似合うんじゃないかな」
アレクの言葉は、カルラよりも先に店長の目を輝かせた。
「ええ、その通りですわ。このバレッタこそ、正にお客様の為に生まれてきたと言っても過言ではありません」
間違いないというより、他の誰かが付けているところを想像することの方が難しい。カルラといえばすっかりその気で、あっさりフードを脱いでしまった。
「試着しても構いませんか」
店長は二つ返事でケースの鍵を開け、手の込んだシニヨンまで結ってくれた。
「凄い、完璧だよ」
服はともかく、畑臭い黄色と緑は不思議と黒髪に馴染んでいる。店長のセールストークも、あながち嘘ではないかもしれない。
「生成りやビタミンカラーのお召し物と合わせて頂ければ、もっとリゾート感が出ますよ」
合わせ鏡で後髪を見せてもらい、カルラは晴れやかに笑った。ガラスの髪留めで千ドルぼったくられようと、掴まされたのが不良在庫だろうと、これはアレクがアンダーグラウンドのマーケットで行った、最も価値のある買い物だ。二人はは空箱と保証書を別にもらい、バレッタを付けたままレストランを探すことにした。