ふたり回し

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漏出ー4

演出、やっぱりいきなり感の方が大事だなぁ。

  白い砂嵐の奥、緑色のトンネルに二つの影が蹲っている。投光器の前に構えていれば、もう少し見えにくかったろうに。部下たちに聞こえぬようアレクは小さくため息をつき、ゴーグルを上げて袖から時計を覗かせた。12時58分。後二分だ。モハメド達の工作が成功したようで、天井のナフサランプが消えている。最後に連絡した時は、地上部隊も予定通り出入り口を押さえていた。
「状況開始」
 ダリアの声だ。アレクが気付くと同時に銃弾が静けさを断ち、歩哨達の胴を刎ね飛ばした。ダリアの部隊が、地下道からアジートに迫っている。よりにもよって、カルラを逃がした方向からだ。
「前進」
 狙撃手を残し、隊列は壁際を小刻みなステップで駆け出した。ボディアーマーがずれ動き、小銃のストラップがたわむ。投光器の下にたどり着き周囲を確認すると、ダリアは合図を送り狙撃手を呼びよせた。二組のレールが、開けた場所へと繋がっている。恐らくは地図にあった終着駅だ。
「やっぱりね……何の用心もできてないじゃないか」
 ダリアが鼻を鳴らすと、シモンは低い声で尋ねた。
「局長の話を本気にしておられたのですか?」
 何が超能力だ。国家保安局長官が聞いて呆れる。オハの一件の背後に、キリールは城の存在を見抜いているのか。
「馬鹿言うんじゃないよ。それなら奇襲なんか仕掛けるはずないだろ」
 このまま上層に向かう。索敵怠るな。ざら付いた冷たい命令に、応答のさざ波が返って来た。ダリアの部下達はトロッコのターミナルに散らばり、銃を左右に振りながら探索を進めてゆく。
 カルラは今、どこまで進んでいるのだろう。階段で別れてから、ゆうに1時間はが経っていた。ダリアに見つかれば、いや、既に別の道から脱出していない限り、遅かれ早かれ鉢合わせしてしまう。これでは助けるどころか、カルラを敵に突き出したようなものではないか。
「隊長、ありました。内部への階段です」
 上出来だよ。ミンについて壁際の足場に上ると、そこにはクレーンの操作室と転轍機のコンソールがあった。古めかしいレバースイッチと、四角いインジケーター。よく見れば、足場も所々に穴が空いている。突き当りの壁に階段を認め、ダリアはミンを先発に送り、シモンに探索を止めさせるよう命じた。
 どうやらここにカルラは居なかったようだ。兵隊たちは何事もなく広場に戻ってくる。ところがその様子を見守っているうちに、ダリアはディーゼル車が線路脇に寝かされていることに気づいた。
「シモン、あの廃車は調べたかい」
 火災で廃棄されたのだろう。窓は砕け、天井とボンネットが大きくうねっている。
「いえ。あの付近はオレグが確認しました」
 シモンが降りて部下に声をかけたその時、天井の隙間から何か明るいものが見えた。拙い。もしもあれがカルラだったなら。爆破のタイミングを計っているのかもしれない。ダリアは柵を乗り越えて飛び降り、シモンの肩を叩いた。
「いるぞ。シモン、廃車の中だ」
 人に持ち上げられて、何かできるつもりになっていた。アレクはなんと愚かだったのだろう。この一大事に、連中を追い払うどころか、声を上げることすらできない。指一本動かしてこの引き金を引くだけで、この小銃を撃てるというのに。
 シモンとミンが車両に駆け寄り、フロントウィンドウから中を覗こうとしている。
「この野郎!」
 サイトがシモンの姿をとらえ、手の中で暴れながら小銃が弾を吐き出した。