ふたり回し

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漏出ー5

斬る所が分からない……

  コンクリートから煙が上り、ボンネットが火花を散らす。硬い音と短い明滅に合わせた、シモンのブレイクダンス。音に気づき、オレグは逃げ惑った。銃を下そうとしても、体がまるで言うことを聞かない。死体を壁際まで転がし、漸く弾が底をついた。何が起こっている。手元を確かめる前に、ゴーグルの画面を私が遮った。
「誰だ!」
 アレクの叫び声に粟立つ隊員達。ある者はトロッコの陰に滑り込み、またある者はシモンの反対側に銃を向け、見えない敵を探している。
「ドゥルジ! 健在です!」
 ドゥルジの意図に気づいて、隊員達は点呼を始めた。あっという間に全員が名乗りを上げてしまい、偽物は現れない。戻りかけた秩序に、しかし、暫くして一石が投じられた。
「副長は? 副長が撃たれたのか?」
 レナードが口に出すと、足下でオレグが答えた。
「副長です。急に後ろから撃たれて……」
 撃ったのはアレクだ。勝手に手が動いて、シモンを撃ち殺した。一瞬ゴーグルに映ったのは、亡霊だったとでもいうのか。アレクの体を、アレクが突き動かしたのだ。
「副長だって? 隊長、なぜ副長を?」
 オレグの証言に、ドゥルジが声を上げた。アレクが撃つところを見ていたらしい。襲撃者の正体が明らかになり、部隊全体にどよめきが広がってゆく。
「シモンはイポリートの側に内通していた……アンタと同じようにね」
 やはりだ。アレクは小銃のマガジンを差し替え、コッキングレバーを引いた。上手く行けば、1人でアレク達を止められるかもしれない。隊長を疑う訳にもいかず、仲間の銃口はドゥルジに向けられる。
「まさか。何の証拠があるってんです!」
 ドゥルジは賢明にも、お手上げのポーズで申し開いた。後は、誰かが気付いてさえくれれば。それでもまだ、打つ手は残されている。
「確保!」
 砂利を蹴り、目の前に集まる隊員たちの白い影。今だ。アレクは引き金を引き絞り、銃口を振った。小銃が手の中で暴れ、肋骨を震わせる。緑一色の世界に、ドゥルジ達の身体から白い光が跳ね上がり、迸った。あの飛沫は彼らの失われた熱、赤く燃える戦士の命だ。フルオートの連射がマガジン弾を平らげる時間は、限りなく短い。数名の部下を死体に変えるには、それで十分だとしても。