ふたり回し

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漏出ー6

難産だった……

  誰でもいい、誰かがコイツを止めなければ。撃たれた者のうち5、6人かが死にぞこないうめき声を上げているが、アレクは止めを刺さず、トロッコの陰に滑り込んだ。隊員の銃撃が、間をおかずに追いかけてくる。
「おや? 撃つのかい、自分の上官を」
 マガジンを交換しながら、アレクは隊員を惑わした。
「撃ったのは隊長ですよ。あんたのおかげで部隊は半壊、作戦の続行は不可能だ」
 テロリストに寝返ろうって肚じゃないだろうな。ヨハンを諫める声と、それを拒む声とが同時に上がり、勝手に死地を二分している。こうなってしまっては、アレクが部隊をまとめ直すことは不可能だろう。ある意味ヨハンが、自ら指摘した通りの状況を作ってしまったというわけだ。
 銃声。居丈高な音を立て、トロッコの鉄板を数発の銃弾が撃ち抜いた。当たってはいない。頬を焼いたのは火の粉だ。唇についた錆の粉を吐き捨て、アレクはヨハンに向かって撃ち返した。熱病が通り過ぎ、じりじりとイポリートの最後が寒気の底から浮かび上がってくる。命を取られはしないだろうが、目が覚めた時、アレクの脳がどうなっているか分からない。
 潮時だ。城に戻ろうと、アレクは手足をばたつかせた。左手が空を切り体が砂利の上に崩れ落ちただけで、少しも体から感覚が剥がれない。意図した通りに体が動いてしまう。
「どういうことだ?」
 ヨハンが待ってくれるはずもなく、銃撃はアレクを急き立てた。なぜいつもの方法が全く通じないのか。出口を見つけられず砂利の上でもがくアレク。不意にトロッコが鳴り止み、離れた所で銃撃戦が始まった。
「やめろ、ヨハン!」
 上からの指示で本当に粛清が命じられていたのかもしれない。苦し紛れの解釈が、酷く拍子外れに聞こえる。
「寝言も大概にしろ! 仲間が無差別に撃たれたんだぞ!」
 銃声は聞こえず、コンクリートや鉄骨が乾いた音を立てるのみ。この場において、仲間割れは天の恵みだ。せめてどちらかを撤退させなければ、地上部隊が引き際を見失う。
「隊長、ご無事ですか? 隊長!」
 どうにかして今のうちに脱出できないものか。アレクは目を瞑り、抜け出し方をおさらいした。肝心なのは、本人の動きと自分のイメージする動きが食い違うことだ。ところがアレクの身体は、思った通りに動いてしまう。おかしい。城から入って来たはずなのに、なぜこれはアレクの身体なのか。アレクの身体なのに、なぜ乳が潰れているのだ。
「しめた!」
 手で小石がつかめる。手をついて体を起こすと、掌に砂利が食い込んだ。
「投降する! ドゥルジ、生きているな。私を拘束しろ!」
 そうだ。これはダリアなのだ。いつの間にか、アレクではなくなっている。アレクは手を大きく振って、闇の底から飛び立った。