ふたり回し

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貴重な青春は素通りしていくの! その1

久し振り過ぎてキャラが思い出せない!

 

 

 1ゲーム目は可哀相女が先攻だ。
 トリシャさんが食らった手品を、今回も使ってくるだろう。
 実態が謎に包まれている割に、その初手はロッテに伏せカード一枚と大人しい。
 対するKも1ターン目に出すのはメグのみ。
 練習通り、手の内はしっかり隠している。
 スクリーンを見る限り、他の試合も似たような状態だ。

「嘘……火単だなんて。オタクさんはお姉ちゃんのために、火金速攻さえ作ってくれなかったっていうの?」

 口元に手をあて、目を細める可哀相女。
 嫌味ではない、探りを入れているのだ。
 可哀相女を乗せるため、Kは歯ぎしりしてみせた。 

「ちゃうし! 一周回って、その方が有利ゆう話になったんや!」

 若干オーバーだが、及第点としておこう。
 俺も足を引っ張らないよう、目を泳がせている振りをしてやった。

「何て可哀相なお姉ちゃん。騙されてるのが分かってるのに、オタクさんの出まかせにしがみつくなんて……」

 可哀相女はスペルを使わないまま、自分のターンにアンヘルを出した。
 味方のフォースアクトを二回発動させるイコン、恐らくはカーニャのサポートだ。

「てっきりドローするものだと思っていたが……ひたすらコンボを狙いだと?」

 それに何より、低コストの金イコンが多すぎる。
 コスト域を上げていくか他の属性のカードに繋がなければ、ロッテのアニムを活かしているとは言い難い。

「火力にも弱い、ハンデスにも弱い。コントロールからしたらカモだぜ、ありゃ」

 アキノリの言う通り、可哀相女のデッキは理想からかけ離れている。
 速攻でもないのなら、何の準備もなしにフィニッシュを狙うのは無謀だ。

「カードを二枚スタンバイ! レン、スペルはええんか? 使うなら今のうちやで」

 高コストの切り札を手札から避難させたのか、それとも攻撃のタイミングを狂わせるためのハッタリか。
 可哀相女の返事は、しかし、実況に遮られてしまった。

《第3テーブルに動き! 大蔵選手が直接攻撃を仕掛けた! 『導きのリトリ』の効果が発動!》 

 Kが攻撃を始めたが、実況のせいで何を言っているのかサッパリ分からない。

《エンボディでめくったのは……メグ、カンナ、リボン、『弓使いのカンナ』が出た!》

 幸いカウンターはなかったようだが、Kがフォロアで出したのは何だろうか。
 ロッテとアンヘルが除去されないということは、アニスかクローナのいずれかだ。

「可哀相女が眉間に皺を寄せたでオジャル!」

 言われて確かめた時、既に奴はいかにも気の毒そうな顔つきを取り戻していた。
 こちらの狙いを察知されたとしても、驚くにはあたらない。
 アニスと天秤に限って言えば、赤黒フォロアビートは前回の対戦で使った水木と共通している。

「『幸運のアンヘル』のアニメイトで、『人形遣いカーニャ』をカーナ」

 間違いない。
 カーニャを出したのも、天秤を食らった後にリカバリーする芽を残すためだろう。
 
「スペルや! 『罪の天秤』を『肉球アニス』のアニメイトでキャスト!」

 それでも俺があのデッキを持たせたのは、分かったところで止められない速さと破壊力があるからだ。

《第6テーブルが面白い展開になっているようだ……アンヘルカーニャのコンボデッキと、木のフォロアを使う速攻?》

 K達の卓が大写しになると、会場にざわめきが広がった。
 司会が素人だと、こういう時に面倒だな。

《こうしてメタデッキ――つまり流行りもの以外のデッキが勝ち上がってくるのは非常に珍しいことです。見上げたもんですよ、二人とも……あ、今、除去が入りましたね》

 司会とは別に、メーカーから解説者が出向しているらしい。

アンヘルカーニャがリタイア! これは決定打だ!》

 場に残っているのはロッテと、伏せっぱなしのカード一枚のみ。
 この状況でKが自分のターンを迎えるのだから、今ので勝負は半分決まったようなものだ。

《今リストを見たんですが、アニスを出しているのが御影選手、ロッテを出しているのが――失礼、アニスを出しているのは御影蛍選手、ロッテを出しているのは御影憐選手。受付はばらばらだから、偶然ですかねー》

 事情を知らないものには想像もつくまい。
 姉妹なのにいきなり当たって残念どころか、これは因縁の果し合いである。
 手札に余裕が出たため、Kは2枚の伏せカードを出し総攻撃の構えを見せた。

「除去したのがロッテの方だったら勝てたかもしれないのに……お姉ちゃん、なんて可哀想なのかしら」

 そうか、アンヘルならこのターンに殴り倒すこともできた。
 カーニャを出した時、ロッテではなくアンヘルアニメイトしたのはそのためか。

「ミス……だと?」

 単体の性能ではなく、アクティブかどうかで――
 このタイミングにスペルを使えるかどうかで考えるべきだったのだ。

「『怖がりロッテ』のアニメイトで、スペルキャスト、『光の卵』」

 山札の上から出てきたのは、ロッテ、卵、アンヘルの3枚。
 可哀相女はアンヘルをカーナし、さらに3枚のカードをめくった。
 香、シータ、そしてカーニャ
 6枚もめくれば、ドローしなくても5枚積みのカードは勝手に出てくるというわけだ。

《『光の卵』にはリベリオンが付いていますからね。相手のイコンが自分より多いと、追加効果が発動するんです》

 リベリオンだけではない。
 Kが攻めに転じる瞬間、イコンが並び、手札は減る。
 仮にこのままの形でジャックを受ければ、アンヘルで1枚、アニスで1枚、メグで直接攻撃。
 Kは既に可哀相女の射程圏内だ。

「マロも……マロもあれにやられたのでオジャル。イコンを見てからカーニャを口寄せし、己のターンにはカーニャの召喚酔いは解けてオル……」

 固く拳を握りしめ、トリシャさんは声を絞り出した。
 可哀想女め、これが奇術(トリック)の正体か。

「相手がイコンを出した直後なら、ほぼ確実にジャック出来ますね」

 単なるコンボやシナジーではない、carnaの基礎ルールを知悉していなければ使えないテクニックだ。
 許せん。
 カードゲームを愚弄するDQNが、こんなアイデアを思いついていい筈がない。
 奴が敗北するその時まで、嘗てカードゲームが受けたあらゆる栄光は本来の輝きを取り戻すことがないだろう。

「タイミングを変えるだけで、まるで別物じゃねーか……」

 二枚目の天秤でも使わない限り、この時点で予定通りのプレイングは不可能。
 アニスを温存したりクローナをフォロアで出せば、そのまま殴り切られる恐れがある。
 打点が足りなくても、安牌の同士討ちだ。
 Kは目を閉じ、少し考え込んでから大きく息を吐き出した。

「しゃーない、『肉球アニス』で右の手札にアタックや」

 どういうことだ。
 カウンターの危険を鑑みれば、ローリスクなロッテを先に叩く場面だ。
 幸いカウンターは発動しなかったが、墓地に置かれたカードを見てパラガスが声を上げた。

「香りだって?」

 恐れていたカウンターではないか。
 メグなら乗り越えられるが、使わない理由はない。
 残った手札を使えば――その先を考えて、俺は漸く答えにたどり着いた。

「そうか、カウンターコストだ! カウンターコストを払うと、メグの攻撃が直接入るんだ」

 そしてそれが、先にアニスを動かした理由か。
 Kめ、小癪な真似をする。

「『リンゴほっぺのメグ』で『怖がりロッテ』にアタック!」

 二週間前なら、俺の炯眼でさえ予想できなかっただろう。
 あのKが、この複雑な状況でほぼ完璧なプレイングを見せている。
 決して誰にも、無駄な努力などとは言わせん。
 よくぞここまで鍛えた! 俺!

「お姉ちゃん、分かって。もうお終いなの」

 何がお終いだ。
 天秤が出なかったにもかかわらず、形勢は五分。
 どころか天秤さえ出てくれば、貴様は再び丸腰だ。
 それとも何だ、せめてスタイリッシュに降参しようという悪あがきか。
 奴の出したイコンは、しかし、Kから最大の武器を奪い去った。

「カードを一枚スタンバイ! 『幸運のアンヘル』のアニメイトで、『碧眼のシータ』をカーナ!」