ふたり回し

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移植ー6

なぜか細かい表現のことばかり考えてしまう……

 

 アグラーヤのことを、早くカルラに伝えなければならない。風に飛ばされないように気を付けつつ、アレクは大急ぎで中庭に駆けつけた。果たして待ち人の姿はあったが、近づいても気づかずに上の空で石壁を見つめている。
「ごめん、ハンガーの荷物を搬出する準備をずっとやってて」
 言い訳をする必要はなかったらしい。部屋の前に先客がいたので、カルラは早々に退散したのだという。
「随分と綺麗な人でしたけど」
 恋人、いたんですね。淡泊な告発が、そよ風を凍り付かせた。
「まさか。アグラーヤはお見舞いだって一度も来てないぞ」
 ずっと見張っていたわけではないが、足しげく通っていても居合わせなかったことは事実だ。分かり切ったことを言い当てられて、カルラは目を円くした。
「それは、まあ、確かに……」
 単なる遊び仲間だったはずが、なぜかいきなり目を付けられて困っている。訴えが認められて、軽蔑の眼差しは疑いの眼差しに減刑された。
「ニコライの娘で結構なワルだから、カルラも用心しないと危ない」
 難所を乗り越えて辿りついた割に、本題は展望に乏しい。それでも険しい表情から、伝わるものがあったのだろう。
「分かりました。車も無事だったので、一度リストヴャンカに戻ります」
 本当は一言告げて、そのまま帰るつもりだったのだという。もたもたしていると戦闘に巻き込まれるだけでなく、周囲に検問が敷かれる可能性もある。
「さて、暗いうちにアジートを発たなければ」
 アジートと違い、廃村は部外者の立ち入りを許さないだろう。これで暫く、カルラとは城の中でしか会えなくなる。
「ああ、お休み」
 白衣の背中が城の入り口に消えるのを、アレクは目を細めてじっと見送った。

 翌朝の集合場所は、トロッコのターミナルだ。アレクは村で荷物を下す班に回され、ボルゾイの交換部品と共に運ばれた。随所に見張りを立てているとはいえ、貨車を牽く四駆のジャックポットは今にもトンネルからあふれ出しそうだ。お互いの声がかき消され、世間話の一つもままならない。長々と揺られた据えに漸くフィーバーが収まったかと思うと、そこはもう移動先のターミナルだった。
「ここからもう一回トラックに乗るのか……砂漠越えのトラックを思い出すぜ」
 先輩の故郷は、黄河沿いの西安という街なのだという。バトゥ達と同じ頃かとロープを解きながら尋ねると、大きく、空っぽな笑い声が返ってきた。
「そのせいか。いつの間にか、話したつもりになってたわ」