今週中にこの会話を最後まで……なるか!
分厚い唇をきっと結んで足を組み直し、シャビィはゆっくりと鼻から息を吐き出した。
「一体どうすれば老師たちは考え直してくれるのでしょうか。私は……私には、うまく説得する自信がありません。」
溜息混じりに嘆くシャビィに、リシュンは粥をすすめた。
「シャビィさんは何も悪くありませんよ。そうして気持ちが塞ぐのは、お腹が空いているからです。さあさ、召し上がってください。お腹が膨らめば、何かよい知恵が得られるかもしれません。」
気力を失っても、腹は空くものである。始めは鈍かった匙の動きが次第に勢いをつけてゆくのを確かめながら、リシュンもせわしなく手を動かした。人間は、年をとればとるほどに頑固になる。シャビィは説得と言ったが、あの老人に改心を求めるのがそもそも無理な話だ。シャビィの気に障らぬよう、リシュンは慎重に言葉を選んだ。
「……ただ、寺院の周りでは既に少なからぬ財が動いています。この不正は、もうジェンドラ大師のご一存では止められないところまで来ているのかもしれません。」
シャビィは顔を上げ、音を立てて粥を呑みこんだ。広い額に、大粒の汗が群がっている。首を横に振りながら横目でシャビィの顔色を確かめ、リシュンは話を切り出した。
「かくなる上は、多少強引な手を使っても、不正を続けられないように仕向ける必要があります。そのために――」
リシュンの重たい眼差しは、シャビィから正しい記憶を引き出した。
「そのために、老師たちの不正を暴かなくてはならないんですね。」
寺院の権勢の源は信心である。完全に化けの皮をはがすことができれば、二人でも太刀打ちできないことはない。
「ただ、私たちが騒いだところでどうにかなる相手ではありません。不正が行われている証拠を、白日のもとに晒さない限り、誰も信じてはくれないでしょう。」
こともなげに言い放つと、リシュンはまた粥を掬った。細い眉は、安らかに伸びきっている。
「あの地下室を皆に見てもらうことができれば、分かってもらえると思いますが……何とかして、友人に協力してもらいましょう。」
寺院の裏側は、外に対して固く閉ざされている。開くなら、内側からだ。幸いにして、寺院の中にはシャビィの友人がいる。シャビィの声には勢いがあったが、リシュンは首を横に振った。
「それも難しいでしょう。誰が不正にかかわっているか分からない以上、内側の人間を迂闊に信用することはできません。勿論、良識のある禅師様が沢山いらっしゃるというのは分かりますが……シャビィさん、ジェンドラ大師があなたの悪い噂を流していないと考えられますか?」
リシュンは小さく肩をすくめ、シャビィはぐったりとうなだれた。この期に及んで門主が律義に正語だけ守っていると考えるのは難しい。
「八方ふさがりか……」
リシュンは粥を平らげると、力なくテーブルの上に身体を投げ出したシャビィを匙で小突いた。
「そこで、ジェンドラ大師には自ら尻尾を出して頂くことにします。」
シャビィは、目を丸くした。いつの間にかかまどの火が消え、リシュンの背後に薄明かりが染みだしている。
「実は、さっきの話にはまだ続きがありましてね……」
真黒なリシュンの影が、ふたたび静かに語り出した。
*アルファポリスのポイント集計へのご協力をお願い申し上げます。