少し間が空いてしまったが、気を取り直して。
翌朝、シャビィは物音で目を覚ました。明るいながらも部屋の中が見えるのは、まだランプが消えていないからだろう。蔵の中で寝過ぎたせいか、ゆうべはなかなか寝付けずに、かすかに聞こえるリシュンの寝息と夜明け前まで闘っていたシャビィだが、一度眠ってしまうと、起きるのは辛いものである。重い目をこすりながら、シャビィは大きく欠伸した。
「おはようございます。」
慎ましい部屋を見渡し、ベッドの上にリシュンを見つけて、シャビィは呑気に首をかしげた。さっきの音は、どうにもリシュンが立てたわけではないようだ。リシュンの寝顔には下ろした髪が何本かかかって、不思議なほどあどけなく見える。
うっとりと占い師に見蕩れる不届きな禅僧を叩き起こしたのは、天井を駆けまわる荒々しい足音だった。
「リシュンさん、起きてください。大変です。大変なことになりました!」
こんなに奥まった場所だというのに、寺院はどうしてすぐ突き止めることができたのか。シャビィは血相を変えてリシュンに駆け寄り、細い肩を激しくゆすったが、リシュンは顔をしかめてシャビィに一瞥をくれると、何も言わずに寝がえりをうってしまった。藤のベッドもぎしぎしと、主と同じく機嫌が悪い。
「眠っちゃダメです。刺客です。私たちは見つかってしまったんです。」
足音は、今も頭の上を徘徊している。シャビィの手を払いのけ、リシュンはひずんだ声で応えた。
「あれは上の人です。」
シャビィは目をしばたかせた。
「上の人?上の人ですか?」
リシュンは二度寝を諦め、小さく呻きながら起き上がった。誰の仕業か、この坊主頭は簡単に納得しないよう作られているらしい。
「この上には別の家が建っているのです。あの人は市場で働いているそうなので、朝は早いでしょうね。」
手櫛で髪を直すと、リシュンはぶつぶつと恨み事を呟きながらおぼつかない足取りで台所に向かった。朝に弱いのか、洗面器に水を汲む様子も、どこかぎこちない。
「お騒がせしました。」
いつもの癖でさすった頭には、うっすらと毛が生えている。シャビィは手を止め、部屋の隅に置かれた鏡を覗き込んだ。
「おはようございます。ゆうべは……お互いよく眠れなかったようですね。」
顔を洗ったせいか、戻ってきたリシュンの顔はいくらか引き締まっている。シャビィは鏡の中のリシュンに、小さく会釈した。
「おはようございます。」
頭の上から足音が離れてゆき、最後に扉のしまる音がしたきり、物音はぴたりと止んでしまった。
「寝足りない気もしますが、もうこのまま動き出すことにしましょう。とりあえず、私は水を汲んできます。」
手桶を取りに行こうとするリシュンを、シャビィは呼びとめた。
「手伝わせてください。それくらいのことなら私にもできますから。」
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