ふたり回し

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☶☴(山風蠱)――その44

山風蠱が最後まで書きあがったら、虎紳と煬威のシーンは書き直してみようかと考えている。

リシュン主導で説明する形にすれば、多少強引でも短くできるような気がする。

43より続く


 シャビィは大きく方を落として鏡の前にへたりこみ、リシュンはこれ幸いと鏡の上にくせ毛を書き込んだ。しきりに溜息をつきながら、右を向き、左を向き、まるでリシュンの為すがままである。

「亭客は……皆そのような呪いを用いるのか?」

 目を伏せながら虎紳がためらいがちに尋ねた。リシュンは具合を確かめながら、シャビィの頭に髪を描き足している。

「これは亭客ではない、多麻州の占い師から教わったものです。」

 リシュンはシャビィに座り直させ、後頭部にとりかかった。

「俺たちが畏れるべきは、亭客ではなく占い師だったというわけだ。」

 虎紳は胡座の上に肘をつき、力なく笑った。シャビィの頭は、いつの間にかまだらになっている。

「それでよ、俺たちはどうする?港に加勢するか?それとも爺さんをおさえるのか?」

 煬威に脇を小突かれ、虎紳は腕を組んだ。

「いや、港が上手くおさえられたなら、門主はもう再起できまい。」

 虎紳の視線を感じ、リシュンは手を動かしながら答えた。

「ええ。それと、もう一つ。国境破りの風評を、軍の周りから流して頂きたいのです。寺院の船が着くのは、早くても明日の昼過ぎでしょう。まだいくらか間があります。」

 出会い頭にリシュンが指摘したとおり、虎紳達が一番に知らされるはずの話である。

「港に潜り込むのは明日からか……本山まで往復することを思えば、それでも早いくらいだな。」

 カタリム山はナルガから海峡を渡ってすぐのところにある。山を登っても半日の道のりだが、荷物を担いで夜の山道を下るのは難しい。

「分かった。ここの兵隊にも掛け合ってみよう。こちらから流すほうが自然に見えるはずだ。」

 虎紳が頷き、リシュンは深々と頭を下げた。

「恐れ入ります。私は知り合いの商人にあたり、寺院が咎人を探している旨を伝えましょう。」

 リシュンの言葉を確かめると、虎紳は立ち上がって窓の外を見た。

「何か、他に聞いておくべきことはないか?」

 雲はもう出ていないようだ。雨も上がったばかりなので、朝ほど暑くはないだろう。虎紳につられて、煬威も腰を上げた。

「いいえ、今は何も。」

 リシュンは首を横に振り、二人を見送るために立ち上がった。

「そうか。なら、明日、港で。」

 雨を吸った思い扉が、音を立てて大きく開くと、潮の香りのいくらか混ざった蒸し暑い風が流れ込んできた。

「ええ。必ず成功させましょう。」

 力強い声に背中を押されて、虎紳たちは星空の下に歩みだした。雨上がりの空は深く、明るい家並みの隙間からも、いくつかの星が見える。

「そうだ。」

 階段の手前で、煬威が振り返った。

「あんた、もう自分で占ってみたか?この捕物が上手くいくか。」

 リシュンは煬威に向かって、ふんわりと微笑んだ。

「ええ。『水風井』。水の湧くところに人が集まるという意味です。」

 手綱から解き放たれた煬威の笑い声は、狭い石壁の狭間を荒々しく駆け巡った。

「違えねえ!占いも結構当たるもんだな!」

 階段を上ってゆく二人の白い影の形は、眩しい光の中に滲み、曲がり角に消えていった。



その45へ続く


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