ふたり回し

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つべこべ言わんと作れや! その6

予想外のピンチにマジになってしまうCタケであった。


 パラガスの手札に向かって、ターコイズブルーの鋭い爪が付きつけられた。

 何かまずいことでもあったのか、僅かにパラガスの目が上ずり、目じりに小さく皺が寄っている。

 パラガスは俺と糞ビッチを見比べてから、右端のカードをフィールドに出した。

「カウンター発動、新緑のカチューシャをカーナします。さっきの合わせ鏡も、こういう風に攻撃されたときに使えるんですよ」


二回表アタック・フェイズ

糞ビッチ

手札:合わせ鏡

場:風来坊のコメット、肉球アニス


場:なし

  ↓カウンター0:新緑のカチューシャ↓

  新緑のカチューシャ

手札:4枚

   ↓クラック↓

   3枚

パラガス


 わざわざ教えてくれているものを、なぜ自分から地雷を踏みに行ったのか。

 いくらIQが低いからといって、ここまで悉く間違えられるのも珍しい。

「なんちゅーやっちゃ、まんまと騙されたわ」

 糞ビッチは項垂れ、左手の甲に額を擦り付けて悔しがった。

 テーブルの反対側では、盛り返したはずのパラガスが縮こまって目を伏せている。

「お前が勝手に騙されたんじゃねーか。ホント救いようがないバカだな」

 俺がテーブルに肘をついて愚痴ると、ヘッドホンがバンドもどきを小突いた。

「何あれ、偉っそうに。自分のせいじゃん、ねぇ?」

 カチューシャを選んだのは糞ビッチではないか。

 理不尽にもほどがある。

 俺はヘッドホンに言い返そうとしたが、バンドもどきに遮られてしまった。

「アンタ、自分の立場分かってんの?」

 盗人猛々しいとはこのことだ。

 コイツら、力づくでいうことを聞かせるのが人に教えを乞う正統な手続きだとでも思っているのか。

 こんな大男さえいなければ、いや、ついでにロン毛もいなければ、すぐにでも俺の城から蹴り出してやるというのに。

「ま、まだこっちが有利だから! ホラ、サーチが残ってるだろ? 次に使うカードを選べよ」

 俺は怒りをぐっとこらえ、糞ビッチに山札を押し付けた。

 糞ビッチは扇状に山札を広げたが、そもそもどのカードが何の役に立つのか分かっていない。

「次のターンに出てくる敵は後手で焼くしかない。とりあえず天秤を確保だ」

 こちらのターンはもう終わってしまうので、サーチしたところで使えるのは二つ先のパラガスのターンだ。

 パラガスが次のターンに出したイコンは、こちらの除去が通るまでに一度アニメイトできることになる。

「天秤? さっき使うたヤツやな?」

 糞ビッチは一応天秤を見つける事に成功し、俺の指示で山札をシャッフルした。

「あと、さっきの肉球? を出せるんやったっけ?」

 不味い。思ったより早く順応している。

 この辺りで新しい情報を与えなくてはいけない。

「あー、そうそう、フォロア発動して、『肉球アニス』をカーナ。アニスは木だから、水のカードにはアニメイトできない、気をつけろよ」

 carnaの属性制限は初心者がつまづく最大の関門だ。

 ここで使わない手はない。

 

「青から紫しかアカンゆうこと?」

 首を傾げた糞ビッチに、俺はcarnaの基本原則を教えて差し上げた。

「さっきも少し話したけど、イコンがアニメイトできるのは同じ色のカードか、木から火、火から土、土から金、金から水、水から木。隣り合った色のカードでデッキを組むとコストを融通させやすい。特に火のイコンはアニムが軒並み低いから、高コストの火のカードは木のイコンで出すのが定番だ」

 色の話は大当たりだった。

 糞ビッチのスポンジ脳はすでにパンク寸前らしく、目を泳がせながら復唱を試みている。

「木から火? 火から土? なんでそんな一個ずつ決まってるん?」

 見かねた大男が、とうとう口を挟んできた。

 よかろう、そのネタについては、さらに深いトリビアがある。

 実際初心者はなかなか覚えられないところでもあるし、覚え方を含めて説明してやるべきだろう。

「『木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生ず』carnaはもともと陰陽五行をモチーフにしたゲームだったんだ。因みに順番は順番は『もっかどごんすい』。ごんってのは金のことだ」

 俺のラッシュはまだまだ止まらない。

「属性の関係は、イコン同士のバトルにも反映される。木は土の、火は金の、土は水の、金は木の、水は火のイコンに対し、バトルしただけで相手を倒せる能力を持ってるんだ。例えば今いるカチューシャは、パワーで負けているがアニスを道づれにすることが出来る」

 俺の流れるようなトークのおかげで、糞ビッチの顔からはすっかり血の気が失せている。

 あと一押しだ。あと一押しで俺は解放される。

「そういうのはいいから先に進めてくんない? さっきからずっと止まってるんだけど」

 バンドもどきの一言で、テーブルを空気が変わってしまった。

 実にいいところだったのだが、次のターンにもできることはある。

 俺は黙って引き下がり、糞ビッチにターンエンドを宣言させた。


2回表ターン・エンド

糞ビッチ

手札:合わせ鏡

   ↓サーチ:罪の天秤↓

   罪の天秤、合わせ鏡

場:風来坊のコメット

  ↓フォロア0:肉球アニス↓

  肉球アニス、風来坊のコメット



場:新緑のカチューシャ

手札:3枚

パラガス

 パラガスのターンは、大体流れが見えている。

 カチューシャでアニメイトし、特殊召喚ジャスミンに繋げるはずだ。

「僕のターン、ドロー。カードを2枚スタンバイし、アニメイト、新緑のカチューシャ。純白のジャスミンをカーナします」

 ジャスミンも金属性だ。

 金のイコンが増えたせいか、糞ビッチの表情が硬くなってきた。

「なんか敵のイコンがどんどん増えてるんやけど」

 糞ビッチの心配している通り、こちらが木ベースのデッキなのがつらい。

 木の大型イコンを出しても、しっかり除去しなければあっさりやられてしまう可能性がある。

 これで万一本当に負けたら、またバンドもどきが俺のせいだと言い出すのだろうか。

 糞ビッチには是非とも敗走して頂きたいものだが、俺のデッキにケチが付くのは御免だ。

「まだ攻めては来ないけど、次のターンはヤバいぞ。ジャスミンからはどの色のカードにもつながるからな。ないと思うが、あの伏せカードが天秤でコメットとアニスが同時に焼かれるって可能性もある」

 パラガスはお人よしだ。あれは恐らくドロースペルだろう。

 問題は、そこからどんなイコンが出てくるかということだ。

 

「脅かすなや、キノコ」

 糞ビッチの声も心なしか上ずっている。

 次のターンが正念場だ。


2ターン目裏・カーナフェイズ

糞ビッチ

手札:罪の天秤、合わせ鏡

場:肉球アニス、風来坊のコメット


場:新緑のカチューシャ

  ↓カーナ:純白のジャスミン、スタンバイ:???↓

  新緑のカチューシャ、純白のジャスミン、???

手札:4枚

   ↓スタンバイ*2↓

   2枚


「ウチのターン、ドロー……なんや、さっき捨てた奴やな」

 カードゲームに於いて、トップデックは時には行幸で、時には宣告だ。

 この場合は前者、糞ビッチはビギナーズラックにあやかっている。

 ここでナージャを使えば、、ジャスミンが次に出すカードを潰すことが出来る。

「アニスは罪の天秤に充てるとして、コメットをどう使うかだな。ジャスミンがスペルにアニメイトしてくれれば、殴ってサーチすることもできる」

 ナチュラルウッドのテーブルの上で、ジャスミンのホイル部分は不可思議なスペクトルをにじませている。

 いずれにせよ、アイツの動き次第だ。

「ちょい待ちいな、コメットが構えとったら、スペルは結局使わんのとちゃう?」

 いかにも初心者の陥りそうな間違いだ。

 コスト5で好きな色のスペルが撃てるなら、コメットには好き勝手させても十分なリターンが見込める。

「そ れ は な い。ジャスミンが動かなかったら、それはあれがハッタリで、本当は次に出すイコンだった場合だ。実際この状態じゃ、あのカードには手が出せないからな。無理に殴ればコメットとアニスがやられる」

 俺が声を荒げると、糞ビッチも鼻を鳴らした。

 

「どうせ殴れへんたら、ナージャも出すし」

 罪の天秤に続けて、糞ビッチはナージャを裏向きに並べた。

 まあ、それが正解だろう。

 場アドを確保するに越したことはない。

 

「カーナ!」

 コメットのアニメイトで、ナージャがカーナした。


3ターン目表カーナフェイズ

糞ビッチ

手札:まんまる尻尾のナージャ、合わせ鏡、罪の天秤

   ↓スタンバイ*2↓

   合わせ鏡

場:肉球アニス、風来坊のコメット

  ↓カーナ:まんまる尻尾のナージャ、スタンバイ:罪の天秤↓

  肉球アニス、風来坊のコメット、まんまる尻尾のナージャ、罪の天秤

場:新緑のカチューシャ、純白のジャスミン、???

手札:2枚