ふたり回し

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捕食ー6

次の回は飛ばし気味がいいんだろうけど、どれくらい飛ばすべきか……

 薄暗い廊下の突き当りに、栗色の扉があった。ここが基地の玄関なのだろうか。開けてみると、ノブの動きは滑らかで、異様な厚みと手応えがある。辺りを見渡している間に、アレクの後ろで電子音と鍵のかかる音がした。振り返るとそこに基地はなく、小奇麗な民家の玄関があるだけだ。
 アレクの住む界隈と違い、この側道は綺麗に舗装されている。アジートの中でも上よりの場所だろう。家並ぶ側道から大通りに出て、アレクは足早に坂を下った。戦いが終わったことが伝わっていないようで、通りには人影がなく、鞄やら植木やらがそこかしこで中身をぶちまけ、無残に踏みつぶされているだけだ。中に人が混じっているのを極力見ないようにしながら、アレクは雀荘まで歩き続けた。
 カルラはあの後、どちらに向かったのだろうか。別のトンネルから逃げ出したのか、それとも道を引き返しているのか。このままトロッコ乗り場に降りていったところで、会えるとも限らない。正解を見出せないまま、アレクは階段に足をかけた。靴底が砂を噛み、乾いた音が真っ直ぐ闇を下ってゆく。足で探りながら階段を下ってゆくと、じきに下からもう一つの足音が這いあがって来た。
「カルラ?」
 足音が止み、黒い沈黙が束の間を遮った。別人か。アントンが戻って来たところかもしれない。アレクが訊き直す前に、眩しい歓声が返って来た。
「アレクさん! 良かった、無事でしたか!」
 カルラの声だ。駆け出しかけて、アレクは思いとどまった。
「ああ。カルラは? 怪我はない?」
 返事を聞けば、どれくらい離れているのかも分かるだろう。
「大丈夫です。アジートの見張りと鉢合わせしそうになったんですが、偶然近くに廃棄された車両があって……」
 カルラの声が近づいてくる。後5m、いや、3mか。
「やっぱりカルラだったのか。ごめん、かえって危ない目に遭わせて……」
 皮肉なことに、店で漫然と座っているのが一番安全だったわけだ。
「いえ、脱出しようと言い出したのは私の方ですから」 
 近い。あと少しで手が届く。アレクが手を伸ばしたその時、足首に何かが引っかかった。
「見つけた!」
 手だ。暗闇の中、見えない手が強い力でアレクの足首を掴んでいる。もう一本の手がその上を掴み、まるで綱をよじ登るかのごとく、二本の手が交互に上がってきた。
「カルラ、それだとホラー映画みたいだ」
 アレクはカルラを止め、手に取って確かめた。死体ではない。血の通った温かい手だ。
「仕方ないでしょう、暗くて何も見えないんですから」
 見えないが、お互いまだここで生きている。恐る恐る抱き合い、二人は漸く長い溜息をつくことが出来た。